第55回 制約条件を考える(1)
2015.02.24 山岡 俊樹 先生
以前、制約条件のことを述べたが、最近重要な要素であると更に認識したので紹介したい。我々の生活が実は様々な制約条件下で成立しているのが分かる。下の写真を見ても、歩いている人は河川敷の歩道を歩いているが、通常、川の中に入って移動することはない。
つまり、我々は教育によって制約条件を覚えて、生活ができるようになっている。認知科学のラスムッセンのSRKモデルという考え方があり、我々は初めてあるシステムに出会ったとき、経験者によりそれを使うためのルールを教えてもらい、それを何回も行っていると自動的に行動ができるスキルになるという考え方である。交通の信号機がそうであり、歩道も同様である。そう考えると、実に我々の身の回りには様々な制約があることに気がつく。
そもそも地球が太陽系の微妙な制約のもとで成立しており、地球自体を見るとその制約条件から逸脱し始めて起こった気候温暖化の現象により我々に様々な影響を与えている。また、人類の歴史を制約条件という視点から見ると、様々な制約を広げてきたといえよう。歩ける範囲は数十キロ程度であったが、その後、馬、自動車の出現によりその移動範囲は格段に広がった。
下記のボールペンを見てほしい。
このボールペンを様々な人に渡して使ってもらうと殆どの人は(C)の使い方をして、ペン先を出した後、本体の中心軸を90度回転させて使い始めている。なぜこのようなデザインをしたのかは、多分、形からデザインし始めたためであろう。次回以降もこのような例を紹介するが、本質的な問題は製品を構成する制約条件を無視してデザインしたことによるだろう。この場合は、ボールペンなので、人間と機械との関係から考えると"フィット性"という人間工学の制約条件を無視したことになる。人間対人間ならばTA(Transactional Analysis:交流分析)の制約条件を逸脱すると人間関係が悪くなる。人間対環境ならば、人間は環境の中に包含されるので、環境の持つ制約条件を考えて、生活しなければならない。寒冷地ならば、人間は熱が逃げないように服を多く着るだろう。このような生存に係ることには、制約条件を的確に把握して対応するが、そうでない場合は、制約条件がよく見えないので、制約条件を認識すること無くデザインしてしまう。
このように制約条件という切口から我々の世界を見ると、今まで見えなかった構造が見えてくる。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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