第57回 制約条件を考える(3)
2015.04.23 山岡 俊樹 先生
制約条件を用いて、効率よく発想する方法を考える。通常、何かを発想する場合、曖昧な条件の下、色々なアイディアを出すのか良いとされている。そうすると面白いアイディアは多く出せるのだが、面白いだけの場合が多く、役に立たない。この面白いアイディアから更に別のアイディアが生まれることもあろう。しかし、発想する作業は無目的に行われるのではなく、様々な目的のために行われるので、効率良く適切なアイディアが生まれなければならない。
制約条件に基づく発想方法は、決めた制約条件の中でアイディアを求めるという効率のよいやり方である。以下に手順を示す。
①制約条件(アイディアの範囲)の範囲を決める。
例えば、斬新で従来にない製品のアイディアを出すのか?あるいは、改善レベルのアイディアなのか?
②設定した制約条件をさらに分解する。分解する基準として空間・時間他の観点から検討する。
例えば、マクロ的な視点から「日常・非日常の世界」で分解する。あるいは、ミクロ的視点では、そのマクロ的視点の日常の世界を更に絞り込んで、「自宅での世界」でも良い。
③分解した世界をさらに絞り込んでゆく。絞り込む基準は空間・時間外である。
具体的に考えてみよう。例えば、LED(発光ダイオード)の活用先のアイディアを求めたい場合を考える。通常、4-5人のビジネスマンが集まり、ブレーンストーミングなどを行い、かなりの数のアイディアを収集するだろう。この場合、発想者は身の回りの事象を考え、それらに適合するLEDのアイディアを出すのが普通である。この場合、LED(発光ダイオード)の活用先のアイディアなので、制約条件として、幅広く捉え、日常空間と非日常空間からアプローチする。日常空間は家庭空間、オフィス空間、非日常空間として、旅行空間、イベント空間を考える。それぞれの空間に関して、時間軸でLEDの活用の妥当性をチェックしてゆく。この作業は人間工学でいうタスク分析である。このやり方のメリットは、論理的にアイディアが出るので、漏れが少ないのと一人でできることである。この場合、家庭空間を例に検討すると、朝から夜までの時間軸でのタスクで、LEDの活用できるアイディアを抽出する。家庭では以下のようになる。
従来のように闇雲にアイディアを出すのは頭のトレーニングには良いが、短時間で効率よく、漏れが少ないようにアイディアを出すには制約条件を活用した発想法が有効である。
以前、講演会でこの方法を紹介したところ、制約条件を考えると良いアイディアが生まれないのではという質問を受けた。一見そのように思えるが、コストが開発のボトルネックとなるので、最初から制約条件を厳密にしたほうが効率的である。制約条件を曖昧にしたままの方が様々なアイディアが出ると思うが、コストや機能面の制約条件からそのアイディアの妥当性を検討するとほとんどアウトの場合も想定できる。そもそも素晴らしいアイディアはすべての制約条件をクリアしているものである。この考え方からすれば、最初から厳密な制約条件を決めて、その中で素晴らしいアイディアを想像するアルゴリズムのほうが効果的であると考える。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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