第98回 ホリステックな考え方(8)
2024.11.27 山岡 俊樹 先生
前号に引き続き、システム化と新ビジネス化(新ビジネスの提案)を説明する。
システムの定義は「多種の構成要素が有機的な秩序を保ち、同一目的に向かって行動するもの」(JIS Z8121)とする。従って、我々の身の回りにあるものは、システムであるものが多い。身の回りを見ても建物、小屋、自動車、TV、PC、扇風機、エアコンからカレンダー、植物などはシステムである。
この身の回りのシステムに対して、当たり前すぎて、あるいは認識がないためか、特に機能が簡単な製品の場合、システムという観点からデザイン・設計があまりされていないようだ。機能が簡単なのでシステム(人間-システム系)と捉えることなく、直観・思い込みでデザインしてしまう。歯ブラシがよい例だ。歯ブラシはさまざまな角度で磨かなければならないので、さまざまな使い方ができる自由度の高い柄のデザインにすべきだろう。例えれば、自由度の低い「グリップのあるカメラ、西洋の鋸」と自由度の高い「グリップのないカメラ、日本の鋸」の観点からいえば、歯ブラシは自由度の高い「日本の鋸、グリップのないカメラ」のようにデザインするのがよい(図1)。
図1 グリップのある・ないカメラ、西洋と日本の鋸と歯ブラシ [1]
1.システム化-----時空間の構造化
システム化とは時空間の構造化である。空間の構造化はモノ・コトやシステムの方針であり、構造化コンセプトである。時間の構造化は開発プロセスを意味する。
(1) 構造化コンセプト
構造化コンセプトはモノ・コトやシステムの目的を受けて、その具体的な方針を示す。従って、目的に基づいて最上位項目を決め、全体として3階層程度の構造にする。最上位項目に対して、第二階層は何をするのか決め、そのウエイト付けを行う。ウエイト比は重要度を示し、コスト比にもなる。第三階層では第二階層の項目を受けて具体的に行うことを記述する。この方法はトップダウン式の方法で、目的→手段の関係から、上位項目を分解して下位項目を決めればよい。
逆にユーザビリティ評価などから要求事項を抽出して、それらをグループ化し、手段→目的に関係から上位項目を決めていくボトムアップ式の方法もよい。しかし、この方法は検討項目が現状の問題点の解決のみに絞られるので改良品に適用するのがよいだろう。
最下位項目はパーツの具体案でもあるので、それらを統合すれば可視化案となる。
図2 構造化コンセプト
(2) 開発プロセス
開発プロセスは以下の通りである。開発プロセスのポイントは企業の理念という大枠から製品化・システム化に絞り込んで可視化することである。この絞り込みの考え方は当たり前で無意識に行っているせいか、この重要性を認識している人は少ない。(この絞り込みに関し、2025年1月末に絞り込み思考というタイトルで出版予定)
①(企業等の)理念の確認
②大まかな枠組みの検討(何を作るのか決める)
③システムの概要(目的や要求事項などを明確化する)
④システムの詳細(構造化コンセプト、仕様など)
⑤可視化(構造化コンセプトに基づきメンタルモデル・身体モデルの観点から可視化する)
⑥評価(Verification: 仕様の確認、Validation: 有効性の確認を行う)
図3 開発プロセス
2. 新ビジネスの提案
前章の開発プロセスの⑤可視化と⑥評価のあと、あるいは同時並行的に新しいビジネスの具現化を図る。
構造化コンセプトの可視化は、事前に準備された300項目のうち主に66デザイン項目を活用して行う。(この300項目は前述した出版予定の絞り込み思考の中で紹介している)
(1) 66デザイン項目
66項目を活用して、製品やシステムの可視化を行う。
HMI(Human Machine Interface)の5側面(5項目)、UIデザイン項目(6項目)、UD項目(9項目)、感性デザイン項目(9項目)、安全性(PL)項目(6項目)、ロバストデザイン項目(5項目)、エコロジーデザイン項目(5項目)、メンテナンスデザイン項目(2項目)
(2) モノ・コト・システムづくりに必要な300項目
66項目を包含した300項目を以下に示す。
1. 社会・経済・文化に関する体験・知識(60項目)
1.1 社会に関する体験・知識
・社会の見方(30項目)
・社会のあるべき姿を求めて(15項目)
1.2 経済に関する体験・知識(8項目)
2. 時間面に関する体験・知識(13項目)
3. 空間面に関する体験・知識(27項目)
4. 人間に係る体験・知識(65項目)
4.1 体験・基本知識(9項目)
4.2 感情、感覚に関する体験・知識(11項目)
4.3 人間に関する体験・知識(18項目)
4.4 消費者に関する体験・知識(12項目)
5. 製品・システムに係る体験・知識(135項目)
5.1 体験・基本知識(19項目)
5.2 ビジネスに関する体験・知識(39項目)
5.3 生産に関する体験・知識(12項目)
5.4 モノ・コトづくりに関する体験・知識(65項目)
(3) UXストーリーチャート [2]
製品やシステムのストーリーを作り、それらの特性を確認してマーケティングに活用する。これらの項目はユーザ調査により抽出された項目であるので、信頼性は高いと考えている。
①製品の3要素(有用性、利便性、魅力性)
②ストーリー(最新、現実、歴史、架空のストーリーは4項目)
③感情(喜ぶ、親しみを持つ、驚く、満足する、愛らしい、憧れる、期待する、心地よさ、面白い、感動するの10項目)
④UXによる感情(非日常の感覚、獲得の感覚、タスク・作業完了後に得られる感覚、利便性の感覚、憧れの感覚、五感から得る感覚の6項目)
以上の「製品の3要素」×「ストーリー」×「感情」×「UXによる感情」の組み合わせで、最適なUXが作られる。
図4は調査から求めたデータで、ユーザはこのような組み合わせを考えているのが分かる。勿論、この組み合わせは一番妥当性が高いが、敢えてこの組み合わせ以外も検討すると斬新なデザインや製品が生まれる可能性が高まる。
図4 UXストーリーチャート [3]
(4)ダイヤ型ビジネスモデル
①目的、②顧客、③ニーズ、④価値の定義、⑤コスト、⑥価値の具現化、⑦提供方法、⑧価値の共有化、⑨ビジネスの仕組みの9項目からビジネス案を検討、評価する。このモデルは企画初期に活用するように考えられたのもので、サービスについて総合的に検討できるようになっている。
図5 ダイヤ型ビジネスモデル [4]
(5)ビジネスの評価 [5]
ビジネス評価チェックリストや事前事後評価法を活用して評価を行う。特に、事前事後評価法はサービスを受ける前の期待とサービス後の評価との差分で評価する方法である。
サービスについて定量化できるので、サービスデザインの評価に有効と考えている。また、ユーザ属性ごとの特性も把握することができる。例えば、学生がラーメン店で差分(事後評価-事前期待)がある値以上の評価をした場合、何度でも行くなどと把握することができる。詳細は文献で確認してほしい。
2. 山岡俊樹, サービスデザインでビジネスを作る, pp.85-89, 技報堂出版, 2022
3. 山岡俊樹, サービスデザインでビジネスを作る, p.86, 技報堂出版, 2022
4. 山岡俊樹, サービスデザインでビジネスを作る, p.95, 技報堂出版, 2022
5. 山岡俊樹, サービスデザインでビジネスを作る, pp.102-109, 技報堂出版, 2022
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