第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)

2017.09.27 山岡 俊樹 先生

 昔、企業でデザイン作業を行っていた時、レンダリングという製品の完成予想図を描いた。技術や営業の関係者にプレゼンを行い、デザイン決定を行うためである。プロとして完全なレンダリングを描かなければと思い、詳細に本物のように描いていた。そのほうが詳細に見えて関係者に理解してもらえるという意識があった。ある時、同僚が万年筆でサーと描いて手抜きのレンダリングを描いていたのを目撃した。通常、レンダリングに万年筆は使わないので、驚いた記憶がある。本人曰く、3-4m先から関係者は見るので、ポイントさえ描けば、ディテールは詳しく描く必要は無いとのことであった。確かに、その通りで、物事の本質を突いたアプローチに兜を脱ぐ思いをした。

 これはある意味では制約条件を考えれば理解は容易となる。3-4m先から関係者が見るので、ポイントさえ描ければよいという結論を得ることができる。デザインの実習で学生がデッサンを行うときも同様で、パースが狂っているにも係わらず、一生懸命ディテールを描いて自己満足に陥っているケースが多々ある。

 様々な事象の本質を得るにはどうしたらよいのだろうか?その事象の成立要件を抽出することであろう。成立要件そのものを深く追及するか、制約条件(前提条件)の観点から探っても良いだろう。あるいは、人の心などの対象物が明確で無い場合、どうしたらよいだろうか。この場合、グラウンデッド・セオリー(注)という手法で、プロパティとディメンション、更には、ラベル、カテゴリーと抽象度を上げて、調べたい本質を探る方法がある。この方法と似ているが、様々なシステムの本質を探る場合、著者がよく使う方法として、このプロパティとディメンションのレベルでのシステムに係る「手がかり」を探して、検討してゆく方法である。例えば、ホテルの場合、ホテルに係る室内のインテリア、設備、什器、従業員の態度などの様々な手がかりから、そのホテルの本質を把握することができる。もう少し厳密に調べたいときは、前述したプロパティとディメンションの視点からアプローチをしても良い。

(注)グラウンデッド・セオリー:観察やインタビューにより得られたテキストデータを細かく分割し、分割されたデータに関する属性(プロパティ)とその値(ディメンション)からデータの特性を明確にし、それの命名(ラベル)を行う。更に類似したラベルを集めて、カテゴリーにするという方法である。

 これらで得られた本質というのは、ある見方から見た価値であり、絶対ではない。そこで、再定義により別の価値を見出すこともできる(図1)。再定義に関しては、次回以降で紹介したい。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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