第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
2022.12.26 山岡 俊樹 先生
文化人類学の手法としてエティック(etic)とイーミック(エミック)(emic)の考え方がある。これらは米国の言語学者であるケネス・パイク(Kenneth L.Pike)が音声的(phonetic)と音素的(phonemic) からphonを除いて作り出した用語である。音声的と音素的の持つ概念を他の分野でも適用できるように一般理論として構築した。主に言語や文化への対応を考えているが、観察やユーザビリティにも活用できると判断した。
エティックは分類基準を外部に依存し、イーミックは観察対象の中に分類基準を求める。
図1で示すように、ある団地を観察する際、団地の外から観察するのがエティックで、団地の中に入り込んで観察するのがイーミックである。従って、エティックは観察対象であるシステムに対し、外側から見て比較し、体系(基準)は観察者が作るので、絶対的、部分的である。一方、イーミックは内側から見るので個別的で、体系(基準)は観察者が発見するので、相対的、全体的である[1]。エティックはシステムの外側から見るため、他のシステムとの比較ができるので、絶対的であり、全システムに対して部分的である。イーミックはシステムの中に入りその中で考え、比較するわけではないので相対的であり、システムそのものを対象にするので全体的である。
この見方を使って、横浜港にある山下公園と横須賀市にある塚山公園を検討した。山下公園は海に隣接し、氷川丸が停留され異国情緒のある臨海公園である。塚山公園は京急安針塚駅と逸見駅間の山頂にある自然豊かな公園で、三浦安針塚がある。通常、観察するとき、システム(観察対象物)の様々な要素を見て判断を行うが、体系的に検討するわけではないので、検討漏れが多い。一方。エティックとイーミックの視点で観察すると手がかりがあるので、システムを構造的に把握することができる(表1)。
表1 山下公園と塚山公園の比較
表1は現場を思い出しながら短時間でまとめたので完全ではないが、エティック・イーミックという手がかりから、それなりの分析ができたと思う。エティックでは視座(standing point:立場)、視野(範囲)、視点(観点)の3つの基準が役立ちそうである。視座で見る高さを決め、それに対応して検討する範囲の視野を定め、視点を特定することができる。 モノ・コトに特化する場合は、目的(視座)、5W1H1F1E(視野)(1F:機能、1E:期待)から演繹的に考察すると様々な視点を抽出することができる。イーミックで得たデータはグループ化して構造化するとその特徴を明確に把握できるようになる。観察を一人で行う状況になった場合、よほどの専門家ではない限り、バイアスがかかり検討漏れを起こす可能性は高いので、このようなフレームは重要と考えている。
イーミックの視点から観察すると、観察対象物の特性を把握することができるが、それだけでは位置づけがわからないので、エティックにより他の観察対象物との比較を行う。
本来のエティック・イーミックの思想からずれた解釈をしたかもしれないが、観察にも役立ちそうだという手がかりをつかんだ。今後さらに深耕させていきたい。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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