第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン

2021.08.31 山岡 俊樹 先生

 製品開発、デザイン作業についても、制約がある。製品開発、デザイン作業など、何事もそうであるが、大枠から絞り込んでいき決定をするプロセスを取っている。分かり易い例でいえば、外食すると決めたときどうであろうか?イタリア料理、中華料理、日本料理などから検討したり、ピザ、スパゲティ、海鮮料理、麻婆豆腐、寿司などの具体的な食事を考えるのが最初であろう。その後、最適な場所や具体的なお店を想起し、かかるコストも考えて決めるのが普通である。厳密に決めることはできないが、モノ・コトはそれぞれの階層構造の中に属し、位置づけられているようである。例えば、モノである扇風機の場合、屋外用、屋内用に分けられ、使用目的により細分化され、階層構造化されている。コトではどうであろうか?旅行する場合、海外、国内に分かれ、国内でも、観光場所、移動手段、個人旅行か旅行社によるツアーか、などと階層構造化される。コンビニに買い物に行く際、自宅の近くに1店舗しかない場合、深く考えずにその店に行くだろう。勿論、厳密に考えると1店舗といえど制約になっている。つまり、モノ・コトの構造が複雑になると、制約を考えて、その情報を絞り込んで決断する必要がある。

 発想も同様である。制約など考えずに自由に発想するのが当たり前で、制約を考えるなどは論外という論調が多いが、本当にそうだろうか?製品開発で、思いつくまま自由に発想して1万円の売値の時計が、10万になってしまったら意味がない。1万円の時計を製造するということは、制約という条件をどう解釈し、実行するかという意味でもある。デザインの作業も同様である。国立競技場のデザイン決定の際、想定コスト内という制約を無視し、デザインの効用を重視し想定額を大幅に超えるデザイン案を採用してしまった。デザインの素晴らしさにより、想定コストを大幅に超えていても、国民の合意が得られればよい。しかし、お金の出どころは税金であり、合意は得られないだろう。建築の一部は文化的側面を持っているので、コスト以上の価値があるもの理解できる。ガウディのサグラダ・ファミリアがそうで、様々な制約を超えた存在である。

 グラフィックデザインは、制約がなく、思うまま発想できると考える人が多いと思うが、そうではなく非常に難しい。昨年、ある自治体から自殺防止のポスターを頼まれた。自殺防止をどのように定義するのか、表面的な「自殺をやめましょう」ではなく、思い悩んでいる人に寄り添い、その心理に触れ合うことが大事である。それをデザインのポイントとしてデザインした。この作業も絞り込みである。グラフィックデザインは、制約を決めてテーマを絞り込んでいく非常に複雑な作業である。

 製品開発の場合、目的、目標を決め、それに従って要求事項を決め、コンセプトにより絞り込み、可視化し、評価により最終的に絞り込み、最初にデザイン案ができる(図1)。次に、マーケティング、技術設計・製造、品質などの各ステップでの制約をパスしてモノができあがる。設計や工場では様々な基準がありそれらをクリアしたものが製品となる。リーソンの提唱した安全管理モデルである「スイスチーズモデル」という考え方がある。自動車・飛行機の操縦や医療プロセスを考える際、それらの各ステップにミスを阻止する多くの穴の開いたチーズが並べられ、各チーズの穴の位置が同じ場合、事故要因がその穴を通過し、事故が起きるという考え方である。製品開発の場合は、逆に成功要因として、デザイン案が設計他、製造、流通、販売の各ステップ(スイスチーズ)の穴を通過し、商品として顧客に届くルートも同様に考えられる。この穴の開いたスイスチーズが制約となる(図2)。この場合、一直線上でなくとも、最短ルートで繋がればよい。ステップで問題があると最適ルートを探すため、ルートが複雑となり時間がかかる。

 こう考えるとモノ・コト作りだけでなく、安全管理、事務作業など多くの分野で目に見えない制約が有効に効いているというのがわかる。我々の身の回りの制約を検討せずにモノ・コトをデザインしてしまった例が多くある(図3)。もう少し、制約(条件)を考えていくべきではないだろうか?

 図1.汎用システムデザインプロセス

 図2.スイスチーズモデルの逆の考え方

(流通はあまり制約が無いので大きな穴で問題なく通過するが、販売は商品の魅力度により穴の大きさが変わる)

 図3.制約を考えないでデザイン?

 (ごみ袋が丸出し、ドアが無いためゴミ回収が大変他)

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