第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
2010.09.03 山岡 俊樹 先生
ユーザとそのインタラクションを観察するには、まず「ユーザ」を観察し、ユーザが行う「インタラクション」を観察する。次に、ユーザの行う「タスク」とユーザが行った後の「痕跡」を観察する。これらの観察によりユーザやシステムに潜む問題点を抽出することができる。
(1) ユーザを観察する
ユーザを観察するには、下記の3つの視点から見るとよい。
(a) 通常の動作(基準の動作)との差異を観察する
ユーザが通常行う動作と異なる動作を行った場合、なぜそのような動作を行ったのか考える。あるいは、可能であれば本人に直接聞いて確認するのが一番よい。何らかの理由があり、そのような行動を取ったと考えられるからである。
(b) ユーザの作業の時間や流れを観察する
何人かのユーザの作業時間を計測することにより、大きな相違があればその理由を検討する。それはやり方の相違なのか、ユーザ個別の問題なのかが分かる。作業の流れは動線と言われるが、動線が複雑ならば単純になるように作業手順などを変える。
(c) 多様なユーザの作業や操作を観察するか推測する
ユニバーサルデザインの観点から検討し、できるだけ多様なユーザが操作、対応できる様に検討する。この場合、多様なユーザの特性を知った上で観察すべきである。例えば、車いすユーザの場合、横への移動が困難という知識があれば、観察をより深く解釈することができる。
(2) インタラクションを観察する
(a)ユーザに与えている負担・制約を観察する
ユーザに負担や制約を与えているインタラクションを観察する。パリで宿泊したホテルのエレベータは下行きのボタンしか無く、上の階に行けることができなかった。上行き指示のボタンは1階のみで、何らかの理由なのだろうが、非常に不便であった。
(b)操作にかかる時間や流れを観察する
操作の流れを調べる方法として、操作箇所を操作順に線で結び、交差するところや複雑な箇所を調べるリンク解析がある。交差箇所を無くすとか、複雑に線が絡まっているところはシンプルなレイアウトにする。
(3) タスクを観察する
ジョブ(仕事)を細分化したのがタスク(課業)で、このレベルで観察すると問題点を容易に抽出することができる。タスクを分析する方法として、3Pタスク分析と5Pタスク分析を紹介する。
(a) 3Pタスク分析
3Pタスク分析は、人間の情報処理プロセスの「情報入手」、「理解・判断」、「操作」の3つの観点から、タスクに関する被観察者の行動を調べる方法である。
手順は示す。
1.観察シーンを決める
2.タスク(場合によっては、更にタスクを細分化したサブタスク)を決める。
3.情報入手、理解・判断、操作の3つの視点から問題点を抽出して記入する
4.問題点の解決案をユーザ要求事項として右欄に記入する
シーン:扇風機を使う | |||
タスク (サブタスク) |
問題点の抽出 情報入手→理解・判断→操作 |
解決案 | |
現実的 解決案 |
近未来での 解決案 |
||
電源プラグをいれる | ・プラグと指のフィット性が悪く、入れにくい | フィット性を 良くする |
|
風量調整をする | ・シートスイッチなので、押しにくい | 弾力性のある 新素材にする |
|
------ | ------ | ------ | ------ |
(b) 5Pタスク分析
3Pタスク分析の「情報入手」、「理解・判断」、「操作」の評価基準の代わりに、 HMIの5側面である身体的側面、頭脳的(情報的)側面、時間的側面、環境的側面、運用的側面の視点で観察をする。この分析方法は、環境や運用的側面にも幅広く係わるのでシステムなどの観察に効果的である。問題点ではなく、直接、ユーザ要求事項を書いてもよい。
4) 痕跡を観察する
ユーザが行った操作や行動には、必ず何らかの痕跡が製品(システム)に残る。
この痕跡を調べれば、ユーザの操作や行動の特徴をある程度つかめることができる。
図 エレベーターの床の痕跡
(a)ユーザの操作・行動による製品(システム)の痕跡を観察する
長時間使用した場合、擦ったり、ぶつけたりした痕跡が残る。この痕跡からユーザがどのような使い方をしたのか推測するのである。使用実態を反映しているので、実験室実験では得られない情報を入手することができる。
写真はエレベータ室内におけるユーザの足跡の痕跡である。この痕跡からユーザは、操作盤にすぐ手が届くように、中心から前方右側に立っていたのが分かる。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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