第82回 思考の硬直・停止(その3)

2023.7.27 山岡 俊樹 先生

 更に前回の続きで、「思い込み」について考察したい。
なぜ、思い込みをするのであろうか?前号で思考の負担をなくすと書いた。

 最近TVでおいしくて安い店を紹介していた。たまたま、旅行先にあったので、その店に入ってみた。食べたがそれほどでもなかった。TVの情報をもとに思い込みが発生したが、実食して崩れた。

 また、無料の講演会があるというので参加した。講師はその分野の専門家なのだが、プレゼンが効果的でなく途中ついていけなくなった。歴史の話ということもあり、なじみがなかったためと思われるが、話している時にプレゼン画面の説明部分にレーザーポインターで指し示すことなく、一方的にしゃべっていた。また、一番重要なことを口頭に依存し、画面には書かれていなかった。配られたレジメには古文をコピーしただけなので、役に立たない。これでは理解ができないのが当然だろう。古文書も読めない歴史の素人が対象なので、レジメにはまとめを書いてほしかった。
 この講師は無料といえども、歴史の話をするので、歴史好きが集まっているという思い込みをしていたのかもしれない。プレゼンが不十分というのは、これで良いという思い込みがあったのだろう。

 思い込みをなくすには、不足する知識を増やすことである。知識量が十分あれば、様々な情報を比較でき適切な判断ができるからだ。ただ、人間は育成環境などによって、本人は気づいていないが、色眼鏡で社会やモノ・ゴトを見ている。この色眼鏡を知識により透明にしなくてはいけない。どうしても社会やモノ・ゴトを肯定的に見る人と否定的に見る人が出てくるのは仕方がないが、できるだけ透明にしていく必要がある。様々なしがらみがあるにせよ、「素直」な視点で、社会、事象を見ることである。
 様々な陰謀説を信じる人々やべき論を言う人々は、所有する情報量が少ないからではないだろうか?そのため濃い色眼鏡となっている。

 思い込みは認知心理学などで言われているメンタルモデルだろう。インタフェースデザインの世界でもメンタルモデルはよく使われ、操作イメージなどと翻訳されている。最近では社会での出来事を理解するための共通の情報(例えば常識とか)をメンタルモデルと言っているようだ。操作系のメンタルモデルの研究は科研費を長年獲得し15年以上行ったが、一番骨格となるのがFunctional ModelとStructural Modelだ。前者は手順を示すので時間的側面、後者は構造を示すので空間的側面と言える。この時空間という切り口から思い込みを考えるとうまく説明できる。

 思い込みは入手された情報が選択され「時間的」に積み重なり、それらが「構造化」されたものとして理解することができる。その人の色眼鏡で選択された入手情報は、蓄積され、構造化されて体系化され、思い込みになったと考えられる。蓄積した情報量やその構造が人によって異なる。従って、ある事象・情報に対して、人々が様々な感想、対応を取るのはそのためである。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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