第51回 物語性について考える(6)

2014.10.28 山岡 俊樹 先生

4つの物語

 今回はモノ、システムに関する4つの物語について考えてみたい。物語の種類を時間軸から歴史、最新の2つの物語を、空間軸から架空と現実の2つの物語を抽出した。これらの4項目はお互いに独立だけでなく、重層する関係になる場合もある。例を示して考えてみよう。歴史のある物語は、古くから由緒ある旅館、創業100年を越した企業や歴史はそれほど長くなくとも時間的変遷を経て発展してきた商品などがある。最新の物語は、文字どおり最新の技術、最新のデザインなど最新の情報を提供することにより、共感を得るのである。また、両者が重複した融合もある。歴史のある由緒ある旅館であるが、最新の設備でもてなしを実現することを行っているところもある。一方、物理的な空間に対し、現実の空間と架空の空間を想定している。現実の空間というのは、現実のさまざまな状況を意味し、あるホテル、病院では現実な対応として顧客志向のさまざまなサービスを展開しているなどの例があり、それが顧客の共感を呼び、利用客増加となっている。様々なイベントもそうであろう。架空の空間とは、架空の状況を言い、架空の物語に基づいた遊園地や施設が該当する。

 我々は見る対象物やシステムに宿るイメージに対応する物語から何らかの意味を感じ取り、共感する。その結果、感情を生む。高齢者の顔を見るとそのイメージ、例えば、しわがある日焼けした顔から、今まで生活してきた歴史や苦労を推測し、共感を得る。同様に見知らずの人の昔の写真を見た時も、共感し、一種の懐かしさを覚える。一方、美しい山や野原の風景を見て、感動するのは表層的な美しさであろう。しかし、その場所の歴史が知られ、美しい場合は、表層的な美しさだけではなく、物語を感じ共感を呼ぶであろう。

 以上整理すると、物語は知られていないと機能が発揮できないということが言えるだろう。すると、いかに情報の発信機能を高め、人々に情報の共有化を高めてゆかねばならない。例えば、兵庫県朝来市にある竹田城は、その形状からいつしか天空の城、日本のマチュピチュなどと呼ばれるようになり、多数の観光客が押し寄せている。天空の城ラピュタ、マチュピチュのイメージと重ね合わせて、竹田城がイメージされ、共感を呼ぶこととなったのである。また、2009年スターバックスは、4月15日に地球温暖化のため、紙コップをやめて、マグカップ持参したらトールサイズ1杯差し上げますとキャンペーンを実施した。消費者はこのようなイベントから企業の姿勢を感じ、それが現実の物語となり、人々の心に残ったことだろう。

 ところで、音楽、特に歌は物語そのものだろう。事実を歌ったり、架空の話を歌ったりして、我々を感動に導いてくれる。この歌の持っている物語は、サービスデザインに使えないかと考えている。歌による物語は、モノ・システムのイメージが絡む物語よりも、直截的であり、強力である。勿論、サービスデザインに使うのは、ケースバイケースであるが、聴覚情報を視覚や触覚情報に変換するか、共存させてうまく使うと効果的であろう。今後の課題である。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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