第44回 制約条件について考える
2014.03.24 山岡 俊樹 先生
我々が通常、会話を行う際、制約条件を明確にした後で、結論を述べることが必要である。今年の3月に引っ越しをしたが、この際、この制約条件について、明確にしないまま結論を述べる人が多く、困惑した。また、ある時は書類を書けと言われたので、自分でその枠組みを考えて、書類を作成したところ、こういう制約条件だからダメと言われた。なぜ、最初に制約条件を言わないのか非常に不思議と思った。しかし、病院で手術をするときは、患者やその家族に対して、医師は必ず制約条件を述べて了解をもらっている。
実は、この制約条件はシステム構築の際、必ず行わなわなければならない作業である。例えば、地盤が弱いところに建物を建てるには、地盤が弱いという制約条件に対して十分対応を考えてデザインするだろう。地盤が弱いという、建物に対して致命的となる制約条件では十分検討するが、人間が絡むようなあいまいな部分には意外と無頓着である。例えば、筆者が使用している風呂を沸かすためのリモコンボックスのボタンが凸の半球状で、毎回押すたびに痛い。見てくれ重視のために本来必要としている機能を損ねているのである(図1)。このように我々の身の回りのモノをみると、制約条件を厳密に考えていない場合が多い。
システム構築の際、早い段階でこの制約条件を厳密に決めて、検討範囲を絞り込む。
そうしないと無限大の情報を検討しなければならなくなるので、この制約条件による絞り込みは必要である。この制約条件には社会や文化的面などの外部秩序とユーザ、機械や技術などの内部秩序の2つの側面がある。例えば、社会や文化的面の制約条件の例として、4を除いたエレベータの階数表示や白と黒の組み合わせは特定のところでしか使わないなどがある。
この制約条件と人間と機械との役割分担(allocation)を使って観察を行うと、今まで気が付かなかったことも見えてくる。例えば,ファーストフードのお店では、その入り口のドアは、タッチ式になっている。これは通常人通りが多いので、自動式のドアにすると通行人が通るとその都度ドアが開いてしまう。これを避けるため、制約条件としてお客には入店の際、制約条件と人間と機械の役割分担から、ドアに取り付けられたセンサーをタッチしてもらい、店全体の有効性を確保するという考え方である。また、ごみの分別も同様である(図2)。ごみの種類ごとに分けるという制約条件と人間と機械との役割分担から、エコロジー実現のための効率性を重視するという考え方である。
このように制約条件という視点から観察すると、今まで見えなかった仕組みが見えてくる。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連記事一覧
- 第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
- 第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
- 第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
- 第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
- 第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
- 第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
- 第84回 思考の硬直・停止(その5)
- 第83回 思考の硬直・停止(その4)
- 第82回 思考の硬直・停止(その3)
- 第81回 思考の硬直・停止(その2)
- 第80回 思考の硬直・停止
- 第79回 ボリューム感
- 第78回 構成の検討
- 第77回 アクセントの効用
- 第76回 活動理論の活用
- 第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
- 第74回 チェックリストの活用法(5)
- 第73回 チェックリストの活用法(4)
- 第72回 チェックリストの活用法(3)
- 第71回 チェックリストの活用法(2)
- 第70回 チェックリストの活用法(1)
- 第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
- 第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
- 第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
- 第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
- 第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
- 第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
- 第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
- 第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
- 第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
- 第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
- 第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
- 第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
- 第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
- 第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
- 第55回 温かいデザイン(31)
- 第54回 温かいデザイン(30)
- 第53回 温かいデザイン(29)
- 第52回 温かいデザイン(28)
- 第51回 温かいデザイン(27)
- 第50回 温かいデザイン(26)
- 第49回 温かいデザイン(25)
- 第48回 温かいデザイン(24)
- 第47回 温かいデザイン(23)
- 第46回 温かいデザイン(22)
- 第45回 温かいデザイン(21)
- 第44回 温かいデザイン(20)
- 第43回 温かいデザイン(19)
- 第42回 温かいデザイン(18)
- 第41回 温かいデザイン(17)
- 第40回 温かいデザイン(16)
- 第39回 温かいデザイン(15)
- 第38回 温かいデザイン(14)
- 第37回 温かいデザイン(13)
- 第36回 温かいデザイン(12)
- 第35回 温かいデザイン(11)
- 第34回 温かいデザイン(10)
- 第33回 温かいデザイン(9)
- 第32回 温かいデザイン(8)
- 第31回 温かいデザイン(7)
- 第30回 温かいデザイン(6)
- 第29回 温かいデザイン(5)
- 第28回 温かいデザイン(4)
- 第27回 温かいデザイン(3)
- 第26回 温かいデザイン(2)
- 第25回 温かいデザイン(1)
- 第24回 人間を把握する(6)
- 第23回 人間を把握する(5)
- 第22回 人間を把握する(4)
- 第21回 人間を把握する(3)
- 第20回 人間を把握する(2)
- 第19回 人間を把握する(1)
- 第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
- 第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
- 第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
- 第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
- 第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
- 第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
- 第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
- 第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
- 第10回 3つの思考方法
- 第9回 潮流を探る
- 第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
- 第7回 構造の把握(2)
- 第6回 構造の把握(1)
- 第5回 システム的見方による発想
- 第4回 時間軸の視点
- 第3回 メンタルモデル(2)
- 第2回 メンタルモデル(1)
- 第1回 身体モデル
- 第70回 UXを考える(6)
- 第69回 UXを考える(5)
- 第68回 UXを考える(4)
- 第67回 UXを考える(3)
- 第66回 UXを考える(2)
- 第65回 UXを考える(1)
- 第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
- 第63回 制約条件を考える(9)
- 第62回 制約条件を考える(8)
- 第61回 制約条件を考える(7)
- 第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
- 第58回 制約条件を考える(4)
- 第57回 制約条件を考える(3)
- 第56回 制約条件を考える(2)
- 第55回 制約条件を考える(1)
- 第54回 物語性について考える(9)
- 第53回 物語性について考える(8)
- 第52回 物語性について考える(7)
- 第51回 物語性について考える(6)
- 第50回 物語性について考える(5)
- 第49回 物語性について考える(4)
- 第48回 物語性について考える(3)
- 第47回 物語性について考える(2)
- 第46回 物語性について考える(1)
- 第45回 適合性について考える
- 第43回 サインについて考える
- 第42回 さまざまな配慮
- 第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
- 第40回 表示を観察する(1)
- 第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
- 第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
- 第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
- 第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
- 第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
- 第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
- 第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
- 第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
- 第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
- 第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
- 第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
- 第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
- 第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
- 第26回 サービスを構造的に観察する(3)
- 第25回 サービスを構造的に観察する(2)
- 第24回 サービスを構造的に観察する(1)
- 第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
- 第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
- 第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
- 第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
- 第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
- 第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
- 第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
- 第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
- 第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
- 第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
- 第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
- 第12回 70デザイン項目とアブダクション
- 第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
- 第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
- 第9回 俯瞰してHMIを観察する
- 第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
- 第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
- 第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
- 第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
- 第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
- 第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
- 第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
- 第1回 観察の方法