第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)

2024.1.26 山岡 俊樹 先生

 音楽が好きでさまざまなジャンルの音楽を聴いている。中学生時代からは主にクラシック音楽、社会人になってからはブルーグラスミュージックと沖縄民謡である。クラシック音楽はドイツ系音楽とストラビンスキー、シベリウス、チャイコフスキーあたりで、バッハはあまり聴いていない。ブルーグラスはもともとアイルランドの音楽に、米国南部に定住したフランス系移民によるケイジャンミュージックを融合したアメリカの民謡である。楽器の構成はギター、フラットマンドリン、フィドル(ヴァイオリン)、5弦バンジョー、ドブロ、ウッドベースからなる。アップテンポの曲が多く、キリスト教の影響が色濃く、そのためか人生のはかなさを訴えかける曲が多い。沖縄民謡が好きなのは、心に染み入る何ともいえない、ある種の懐かしさを感じるためである。

 この3つのジャンルは今でも飽きもせず聴いている。これらの音楽の美しさや楽しさ、感動に差はなく同じである。しかし、音楽のジャンルでクラシック音楽は、ランクが高いという「思い込み」が生じている。クラシック音楽の中でもランクがあるようで、バレエ音楽の評価は低く、交響曲の方が高いとか思われている。この件に関し、昔、我が国のある指揮者が、来日した高名な指揮者にこのことをいったところ、何をいうのだ、チャイコフスキーのバレエ音楽ほど美しいのはないではないかと諫めたとか。

 交響曲は4楽章あり演奏時間が30-40分ほどかかるが、ブルーグラスと沖縄民謡は3-5分程度で約10倍の開きがある。交響曲の楽章の構成はソナタ形式で、提示部(主テーマ)→展開部→再現部から成り立っている。ブルーグラスと沖縄民謡の歌詞は1番から3番程度まであり、同じ旋律が繰り返される。交響曲の1楽章は約10分とすると提示部の主テーマが3-4分程度の旋律となる。ブルーグラスや沖縄民謡は同じ旋律が2-3回連続して演奏され、それらの合計時間の3-5分はソナタ形式の提示部の長さとほぼ同じである(図1)。

 ブルーグラスや沖縄民謡は、言葉と旋律の融合による美しさであり、交響曲は旋律の変化による統合された美しさである。バレエは身体と音楽の融合であり、オペラは身体、言葉と音楽の融合である。これらの融合により美が生まれる。このように表現手段は異なるが、受けとる美しさ、感動は同じである。ただ、それらの強さは人により変わる。音楽以外の要素を排除した絶対音楽でもある交響曲は、理解するための手がかりが音以外になく、初心者にとってかなり聴き込まないと理解するのが難しい。聴き込んでいくと分かるようになり、流れやストーリーを感じ感情が生じる(図2)。図2では初心者と上級者の旋律に対するUX(ユーザ体験)の感度を示すが、上級者のように感度が高いため多くのUXがUX閾値を超えるので理解ができるようになる。

図1 交響曲とブルーグラス、沖縄民謡の構造


図2 体験して、理解できるようになる
(山岡俊樹編著, サービスデザイン, P.32, 共立出版, 2016より)

 我々はある対象をマスター、理解するのが大変な場合は、ランクが高いと「思い込んでいる」かもしれない。本質を見る目を養いたいものだ。従来の考え方は客観と主観は分けて考えていたが、主客一体で考え、体験していくと本質が見えてくる。このことは前回紹介したコーヒーカップに対する無意識化のことを考えれば分かるだろう。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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