第10回 3つの思考方法

2017.03.27 山岡 俊樹 先生

 アイディアの発想や思考をする際、以下の3つの方法がある。

①観察したデータや関係する資料を収集して、帰納法的にまとめる方法。
②ある事象に対し、観察者の持っている知識を基に仮説を推論する方法。
③我々の生活に影響を与えている地下水脈のような潮流やさまざまな情報に基づいて、
 事象を構造的に捉え、発想、思考する方法。

 通常、よく行われている方法は①の方法である。帰納法(induction)とは、事例から法則を導く方法である。帰納法という方法を知らなくとも、知りたい情報を多く集め、それらの共通する情報(規則、法則)を探る方法である。例えば、売れ筋商品を集め、それらの共通事項を調べると、値段が手ごろで、色彩が赤であったなどと判明することである。

 ②はアブダクション(abduction)という方法で、日常、我々はこの推論を行っている。例えば、陸地に魚の化石があった場合、大昔その場所は海底で、そこに沈んだ魚の死骸の上に堆積物が蓄積され、ある時、地殻変動などで海底が隆起して陸地になった為などと推論を行う。

 ③は演繹法(deduction)で、前提となる法則に基づいて、個別の結論を導き出す方法である。この方法による発想法やデザイン方法は、あまり提案されていないようであるが、著者はコンセプトに基づくデザインや制約条件に基づく発想法などを提唱している。

 以上、まとめると以下の様な関係となる。

演繹法:規則→事例(事実)→結論
    デザインプロセスに当てはめてみると、
    コンセプト(規則)から→デザイン情報(事例)を用いて→デザイン案(結論)となる。

帰納法:事例(事実)→結果→規則
    白鳥→色は白→白鳥は白である(規則)となるが、ある地域では黒色の白鳥が
    いたので、この規則は破られた。帰納法は絶対正しいという保証はない。
    観察する時にも使われる思考方法である。

アブダクション:結果→規則→事例(事実)
    観察するときに用いる思考方法である。
    観察物(結論)を見て→なぜなのか規則を用いて理由を考える→事実が分かる

 さまざまなアイディア発想法は多く提案されているが、その基本的な考え方は①の方法に依存していると思われる。思いついたアイディアを積極的に提案し(発散)、収集したアイディアをまとめて(収斂)、整理する方法だからである。

 新しいアイディア発想、思考を行う場合、従来型の①ではなく、②のアブダクション、③の演繹型も活用するとよいのではと考えている。例えば、前回紹介した協創という概念に対し、これは新しい良い方法だと安易に判断するのではなく、何か前提条件があるのでは?あるいは本当に良い方法なのかなどとアブダクションを使って思考してみる。世の中には絶対的に良い方法はなく、必ず裏には問題点もあるはずと考える(77回のコラムを参照)。協創(結果)について、直接文献で詳しく調べたわけではないが、雑誌の記事などからその概念を理解していたので、最初は良い方法だと思っていた。しかし、さまざまな人々が裏付けも無く良いと言うにつれて、本当かなと疑問が生じてきた。発想の先達(以前紹介した小林一三)のことを思い出しても、協創という概念が出てこなかった。昔と現在と比較をしても、発想するという視点は同じなのになぜかなと考えた。そこで気が付いたのが、目利き力(規則)の有無である。ある本を読んでいたら、企画者(発想者)はサラリーマンで、目利きにお金や時間をかけられないので、その道の感度の高いユーザから教えてもらえばよいようなことが書かれてあった。このような考え方が協創のベースにあるのかもしれない。しかし、発想をビジネスとする者は、身銭を切って、自分の時間を使って、目利き力をつけなければ、このグローバル化の時代、対応できるのだろうか?アマチュア感覚で仕事ができたのは、モノが売れた20世紀では可能であったかもしれないが、21世紀の目の肥えた顧客(B2C)・企業(B2B)に対して無力ではないだろうか。 専門家は知識量の多さだけではなく、目利き力という判断力を必要十分条件として位置づけなければならない。そういう土台の上で、協創を行うべきである(事例・事実)。スタンディングポイントが定まっていないうちに、安易に協創などを行うと、関係者の意見に振り回される可能性が高い。

 ③の演繹法の範疇に包含されると思うが、制約条件によるアイディア発想法を考えている。制約条件を厳密にしてゆくことにより、アイディアが絞り込まれるので、時間をかけず良いアイディアが生まれる。学生に対して、簡単な対照実験を行ったところ、従来型の①の方法よりも、本質的な良いアイディアが生成された。詳細は拙著「デザイン人間工学」共立出版、2014、拙編著「サービスデザイン」共立出版、2016を参照されたい。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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