第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン

2022.5.27 山岡 俊樹 先生

 自然の中でしか生きていけない人間は、緑に囲まれた空間が一番居心地がよい。何もないコンクリートの箱の中では生きていけない。ある団地を歩いているとその周囲に多くの樹木が植えられ、平凡なコンクリート建築の存在を弱くしていた(図1)。一方、斬新なデザインの集合住宅なのであるが、周囲に緑がほとんどないため、寂しく、つまらない建物に成り下がっている場合もある。集合住宅を販売する際、間取りの合理性や設備の豪華さを訴求ポイントにしているのが多い。しかし、建物の周囲に植栽して、豊かな空間を提供するという販売戦略をあまり耳にしない。建物の外観にコストをかけ敷地の緑化をおろそかにするのか、あるいは建物の外観にコストをかけず敷地の緑化に力を入れるのか、どちらが良いのだろうか?顧客に容易に訴えることができるのは前者である。確かに多額のお金を払うので、顧客としては見栄えのする方に傾くのは自然である。これは20世紀型のモノを優先する考え方である。しかし、後者はコトを優先する考え方で、建物だけでなく、それを包含する空間も重要視し、癒しを与える考え方である。居住者が部屋に閉じこもるのではなく、気持ちの良い屋外の敷地に出る頻度が増え、居住者同士のコミュニケーションが始まるだろう。郊外型の集合住宅をみると、コンクリートの建物に加えて駐車スペースがあり、樹木が数本あるのが一般的のようだ。樹木が少ないのは、植えるスペースが無いこととコストとの関係と思われるが、居住者同士のコミュニティを行う場所として、屋上につくれないだろうか?フランス、マルセイユにある、ル・コルビジェがデザインしたピロティ形式(この場合、1階が柱だけの構造)のユニテ・ダビタシオン(集合住宅)(図2)では、屋上に様々な施設がつくられている。集合住宅であるが、一部ホテルとなっているので、2010年ごろ1泊し、この建物を観察した。モダンでダイナミックなすばらしい集合住宅と感じたが、モノ主体の20世紀型のデザインでもあった。建物だけのデザインから、建物+敷地空間を総合的にとらえ、居住者にとって優しい温かいデザインにシフトするのが、今後の課題であろう。

 京浜急行(京急)沿線に住んでいるので、よく京急の電車をみかける。電車は本体の赤に1本の白の線が前から後部まで車体側面に引かれてあるデザインとなっている。最近のデザインは、その線を太い帯にして、より躍動感を感じさせている(図3上)。ところが2007年に車体の一部に赤と白のシートでラッピングしたステンレス車がでてきた(図3下)。従来の電車と異なり冷たい印象があり、評判がよくないのか、最近ではステンレス車両にもかかわらず、塗装をして従来通りのデザインに戻っている。京急の場合、通勤だけでなく観光の路線としても役割があり、オールクロスシートの車両もあるので、冷たいイメージを排除したのかもしれない。関西で言えば、阪急電車の側面がステンレス製では、たとえ一部にマルーン色をラッピングしても不評となるのは目にみえている。京都を走る電車としてそぐわないからだ。関東では、耐久性があり、塗装をしないですむステンレス車が多く存在するが、塗装することにより、利用者が愛着をもち親密感を抱くようになるだろう。これはお金で換算することができない重要な要素である。通勤電車を単に乗客を目的地まで運ぶ機能と位置付けるのか、乗車するのが楽しいという体験を重視するかが問われている。これは何も電車に限らず、すべての製品にも当てはまる。自宅の食事の時につかう箸は、食べ物を取って口に入れるだけの機能だから、割箸でもいいだろうとは誰も考えない。公共財だからこそ20世紀型の機能主義の考え方ではなく、人々に温かさを届ける存在になってもらいたい。

図1 緑に囲まれた集合住宅

図2 ユニテ・ダビタシオンの外観
  冬に訪問したためか緑の印象は弱かった。


図3 塗装済の車体(上図)、未塗装のステンレス製の車体(下図)

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