第25回 温かいデザイン(1)
2018.06.25 山岡 俊樹 先生
自動車のスタイリングが好きなので、小学生のころからよく観察をしていた。そのころ東洋工業(現マツダ)のK360とダイハツのミゼットを比較して、K360の方がすっきりしているなどと判断をしていた。また、なぜハンドルを回すとタイヤが方向転換をするのか?デファレンシャルギアの構造はどうなっているのか、小学校6年生ごろ、よく駅前の本屋に行き、自動車雑誌を立ち読みしていた。そうすると店員が来て、はたきでよく追い出された。現在の本屋の対応とは全く違うので時代の差を感じる。時代の差といえば最近の企業の兼業可能という方針にも驚いている。世の中の状況が変わると今までの価値観が劇的に変わるのだなと認識させられる。
スタイリングの話に戻ると、現在の我が国の車のスタイリングをどう解釈すればいいのであろうか。50-60年前と時代が変わったので、スタイリングの価値観が変わったのであろうか。2点、気になっていることがある。
(1)正面のフロントグリル部分の大部分にクロームメッキをしている車が多く、強いイメージを与えている(図1)。
(2)BMWの影響なのか、本体側面部分を凹凸のある強い形状にしている車が多い。
上記の現象は世の中の動きと連動した動きと解釈できないだろうか。時代の流れが異常に早くなり、その流れに対応して造形を行っているようにも見える。世の中が落ち着いた状況になれば、シンプルであっさりしたデザインになるだろうと思う。
オフィス建築も同様なデザインベクトルがあるようだ。ガラスと鉄骨で構成され、効率的で、無駄がなく、何かを訴えているイメージで、モダンデザインの典型である。
技術力が向上し、工業製品や建築物の場合、デザイナーの意図が容易に実現されるようになった。だからこそデザイナーは夢のあるデザインを提案すればいいのであろうか?マズローの欲求5段階説の最上位の自己実現のレベルに到着しつつある現在、1つの価値概念でデザインを行って良いのだろうか?多様な価値を持つユーザの存在を考えると、効率、無駄の排除というモダンデザインの呪縛から脱する時期に来ていると思う。勿論、モダンデザインは今後とも生き延びてゆくであろうが、それだけでなく人々の価値観に対応した多様なデザインが創造されるべきであろう。その一つが温かいデザインである。従来のモダンデザインを冷たいデザインとするならば、その対立概念が温かいデザインである。
次週以降、温かいデザインを説明する。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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