第4回 時間軸の視点

2016.09.26 山岡 俊樹 先生

 20世紀では、モノ作りで時間軸をあまり考慮に入れていなかったのではと考えている。例えば、建築では、変化を考慮したメタボリズムの運動があったが、完成したときが最高の状況で、その後のメンテナンスは不十分な例を多く見る。木造住宅もそうで、わが国の気候的な制約もあり、古くなれば取り壊していた。しかし、以前、ロンドンのパブに行ったとき、築300年ぐらいの木造の建物であった。さすがにこのぐらいの年数がたっているため、床はかなり凹んでいたが、まだ十分使えるという印象であった。電気製品も同様で、使い込んだという製品はあまり多くない。しかし、カメラのような趣味性の強い製品になると、使い込み、塗装が擦れた状況のカメラを見るとその使用歴から親密感を感じる。倉敷市にあるアイビースクエアや倉敷国際ホテルなどを設計した建築家の浦辺鎮太郎は、完成した後の10年後の姿が自分の意図した建築であると述べているのを、昔、本で読んで感動したことがある。そのころ1970年代か80年代だと思うが、当時はエコや地球環境保護に目が向けられず、モノ作りにおける時間軸という視点が欠けていたと思う。

 その当時はモノ作りで精一杯な状況で余裕が無かったのかもしれない。その後、バブルが崩壊し、より自分たちの状況を見つめる余裕ができたのか、時間軸に関する視点が見えてきた。それまでのシステムを空間的視点で把握してきたのを、時間軸を加味し時空間でシステムを見るようになったのだろう。これはシステムが巨大になり、時間軸で見てゆく必要性に迫られた為かもしれない。時間軸で見るというのは一歩引いて、客観的に見えるようになったためとも考えられる。時間軸で見るということは、システムの変化の差異を把握することでもあり、それはとりもなおさずシステム全体を見ることにもなるからであろう。例えば、企業の組織に対して、このような見方ができると思う。

 従来、デザインやメンタルモデルに於いて、構造的に捉えるということは、空間での見方でもあった。頭の中でシステム要素の関係を空間的に理解していたといえよう。これに時間軸を加えるということは、システムの変位を知ることであり、よりシステムに関する理解が深まるだろう。時間軸で見てゆくと、ものごとの本質が分かるというのは言いすぎであろうか?従来のデザインはモノを作るのが主眼であり、そこにはUX(ユーザ体験)の視点は弱かった。ところが、このような静的(static)な視点から、21世紀になると動的(dynamic)な視点を加味した製品開発が盛んになってきた。この理由は人々の生活レベルが上がり、スタティックな視点では満足せず、ダイナミックな視点によるモノ作りが必要になったためかもしれない。そういう目で見ると、感性、UX、サービスデザイン、メーカーや販売店の顧客との継続的関係維持、などが重要視されているのが分かる。

 そもそも人間はダイナミックな存在であり、常に動いている。例えば、目は固視微動という眼球運動をしているが、もしこれを止めてしまうと目が見えなくなる。また、感覚遮断といって、人間のもつ感覚(視覚、聴覚、触覚)を遮断させると、思考や身体がおかしくなることが報告されている。このことは常に人間は時系列な刺激が必要というのが分かる。このような生理面からも人間はダイナミックな存在と理解できるだろう。そのようなことから、20世紀のモノ作りはスタティックな視点でのアプローチが多く、ある意味では不十分であった。その点、茶道、華道、剣道、書道などの道が付く世界では、スタティック(型)とダイナミック(変化)がうまく統一、一体化した形式美で、今後のモノ作りに良いお手本になると考えている。

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