第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン

2021.12.24 山岡 俊樹 先生

 ある本を読んでいたら「計画を立てる場合でも、日本の社会では昔から部分、部分を積み上げていって全体の格好をつけるといった物事の進め方が支配的なので,- - (中略) - - ,私たちは今でも完璧な部分を積み上げていけば、全体のことはあまり気にしなくとも必ずうまくいくと考えています。」1)と指摘があった。まさしく私が以前から考えていることと全く同じなので紹介した。我国の予算算定システムやモノづくりのアプローチ方法も同様である。製品の場合ならば、製品の改善点を積み重ねて、新製品を作るといったボトムアップ式のやり方である。

 松本健一「砂の文明・石の文明・泥の文明」2)によると、西洋とアジアにおける自然観の違いとして、西洋では自然の原理研究から自然の改良を行うが、アジアでは自然原理の解明ではなく、その経験則に立脚した自然利用が得意であったと説明している。これらの考え方の違いは風土にその理由を見つけることができる。石の文明である西洋ではやせた土地が多く、自然の改良や開発をしなければならなかった。一方、泥の文明であるアジアでは豊かな自然がすべてあるがままの状態でモノを生んでくれるという状況としてとらえることができる。自然をシステムとして理解すると、西洋では原理研究、つまり構造的なとらえ方としてとらえることができるだろう。システムの方針、目的を決めてから詳細を決めていくトップダウン的アプローチである。一方、経験則で考えていくアジアではミクロ的な視点が重要視され、ボトムアップ的アプローチが主流である(図1)。東洋医学は全体論的なアプローチを採っているが、その根底は経験則である。経験則で考えることは、ある事項に対して、こういう対応で行うとうまくいくという結論にたどり着くので、構造的視点は弱くなる。

 20世紀で我国の産業が発達したのは、モノを改善してよいモノを作るボトムアップ的視点のためである。しかし、21世紀では、システムであるサービスが産業の主体となると何を作るかが一番重要なベクトルとなる。これに対して威力を示すのが目的を明確にしておこなうトップダウンのやり方である。積み上げ式ではなく、トップダウンで何を作るのか構造的・論理的に考え実現に持っていくやり方である。このため国内外を問わず、企業で重要視されている方法として、エンジニア(左脳思考)とデザイナー(右脳思考)が一緒になって、何を作るべきか発想していくやり方が注目を浴びている。

 ここで考えているサービスはモノとコトを包含した、人々に有形、無形の新しい価値を提供するシステムである。この観点から考えていくと「目的」の概念が非常に重要となる。あるシステム(W)の構成要素が仮にA、BとCの場合、新システムをボトムアップ式で検討するとA',B',C'などの改良のアイディアが出るだろう。一方、そのシステムを再定義して目的を変えると(W')、その構成要素はA,X,YやX,Y,Zなどが考えられる(図2)。つまり、従来の構成要素を一部、あるいは全部変えることができ、全く新規なシステムを作ることができる。そこで目的を考案するにはどうすればいいのであろうか?それには「知識」と「体験」である。「知識」と「体験」は次回紹介する。

 

1)加藤昭吉,考え方の時代 仮説からの発想,p117,論創社,1995
2)松本健一,砂の文明・石の文明・泥の文明,p92-94,PHP新書,2003

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連サービス

関連記事一覧