第5回 システム的見方による発想
2016.10.27 山岡 俊樹 先生
デザイン思考という体験を基にしたデザイン方法・発想法が米国のIDEOというデザイン会社により紹介された後、我国では雨後の筍のように様々な書籍が出版されている。これはデザイナーならば誰でも自然に使い込んできた手法なので、今更という感覚を持つデザイナーは多いだろう。この手法の良いところは、実際に試作品を作り、体験して新しい発想をすることができることである。難しい方法ではないので、誰でも扱いやすい。しかし、体験する時にどういう基準で良いと判断するのか?若いデザイナーがお年寄りの感覚や認知を類推できるのか?それを解決するためには人間工学の知識が必要である。人間工学は人と機械・システムの調和を考える学際的学問なので、広範囲の研究領域を持っている。生理、身体運動、認知、システム管理さらにサービスの概念も包含されていると考えている。この手法の新しい発想ができるという売りの半分程度はもともとデザイナーの訓練された発想能力に依存しているかもしれない。もともと製品デザイナーの場合、モノを媒介して発想する仕事でもあるので、自然と発想力がついている。従って、このような訓練もしない学生や社会人が果たして、使いこなせるのだろうかと考えている。デザイン系で開発された様々な手法は、もともとデザイナーの持っている能力を土台としていると思われ、一度このような視点からそれらの手法の有効性を吟味したほうがよい。また、主にデザイン系の開発された手法は、身の回りの商品を対象としているのも要注意である。自転車を初めて乗るのにマニュアルはいらない。体験の積み重ねが大事である。一方、飛行機を操縦するのに、機体や法規の知識、操縦の体験が必要である。前者が従来のデザイン系の手法とするならば、後者つまり複雑なシステムのデザインは新しいタイプのデザイナーの出現が期待され、システム的な思考を必要とする世界である。
前置きが長くなったが、このシステム的な思考、これは構造的に捉えることであり、今回はその発想法を紹介したい。システムを検討する際、①全体の目的、②その構成要素、③それらの関係を明確にしなくてはならない。この3項目を明確にすることにより、システムの概要が固まる。そうするとデザインを行う際、まず目的を決めなければならない。この目的を決めるときに、従来製品の延長か、全く新しい製品にするのか決める。全く新しい製品を想定するならば、製品の再定義を行い、その構成要素とそれらの関係を特定して、時間軸上でシステムを膨らませて提案性を上げる。例えば、お茶の新しい企画を考えてみよう。お茶の再定義として、従来のおいしいお茶の追求などでなく、「人々を幸せにするお茶」、あるいは「人々の人生観を変えるお茶」と定義してみる。前者の場合、「人々を幸せにするお茶」を目的―手段の関係から分解する。「人々」→文字通り、子どもからお年寄りまで多様なユーザを考える。「幸せにする」→①幸福を届けることにより実現する方法、②おいしいお茶を介して、仲間や家族と談話が進み幸せになる、③一人で飲むとき、ほっとした気分になる、などと思い付くことを構成要素として下位の文でまとめる。そして、更に細分化する。①の場合、幸福を贈るということは、誕生日に贈る、何かのお礼として贈ると考える。さらにその下位の項目を考えてゆくとより具体的な項目に絞り込んでゆくことができる。これは以前、紹介した制約条件による発想法でもある。図1で概要を示す。図1で示す→は構成要素間の関係を示すが、冗長のところがあるので、別途、構成要素を整理して簡略化しても良い。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連記事一覧
- 第95回 ホリステックな考え方(5)
- 第94回 ホリステックな考え方(4)
- 第93回 ホリステックな考え方(3)
- 第92回 ホリステックな考え方(2)
- 第91回 ホリステックな考え方
- 第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
- 第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
- 第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
- 第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
- 第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
- 第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
- 第84回 思考の硬直・停止(その5)
- 第83回 思考の硬直・停止(その4)
- 第82回 思考の硬直・停止(その3)
- 第81回 思考の硬直・停止(その2)
- 第80回 思考の硬直・停止
- 第79回 ボリューム感
- 第78回 構成の検討
- 第77回 アクセントの効用
- 第76回 活動理論の活用
- 第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
- 第74回 チェックリストの活用法(5)
- 第73回 チェックリストの活用法(4)
- 第72回 チェックリストの活用法(3)
- 第71回 チェックリストの活用法(2)
- 第70回 チェックリストの活用法(1)
- 第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
- 第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
- 第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
- 第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
- 第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
- 第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
- 第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
- 第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
- 第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
- 第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
- 第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
- 第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
- 第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
- 第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
- 第55回 温かいデザイン(31)
- 第54回 温かいデザイン(30)
- 第53回 温かいデザイン(29)
- 第52回 温かいデザイン(28)
- 第51回 温かいデザイン(27)
- 第50回 温かいデザイン(26)
- 第49回 温かいデザイン(25)
- 第48回 温かいデザイン(24)
- 第47回 温かいデザイン(23)
- 第46回 温かいデザイン(22)
- 第45回 温かいデザイン(21)
- 第44回 温かいデザイン(20)
- 第43回 温かいデザイン(19)
- 第42回 温かいデザイン(18)
- 第41回 温かいデザイン(17)
- 第40回 温かいデザイン(16)
- 第39回 温かいデザイン(15)
- 第38回 温かいデザイン(14)
- 第37回 温かいデザイン(13)
- 第36回 温かいデザイン(12)
- 第35回 温かいデザイン(11)
- 第34回 温かいデザイン(10)
- 第33回 温かいデザイン(9)
- 第32回 温かいデザイン(8)
- 第31回 温かいデザイン(7)
- 第30回 温かいデザイン(6)
- 第29回 温かいデザイン(5)
- 第28回 温かいデザイン(4)
- 第27回 温かいデザイン(3)
- 第26回 温かいデザイン(2)
- 第25回 温かいデザイン(1)
- 第24回 人間を把握する(6)
- 第23回 人間を把握する(5)
- 第22回 人間を把握する(4)
- 第21回 人間を把握する(3)
- 第20回 人間を把握する(2)
- 第19回 人間を把握する(1)
- 第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
- 第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
- 第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
- 第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
- 第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
- 第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
- 第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
- 第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
- 第10回 3つの思考方法
- 第9回 潮流を探る
- 第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
- 第7回 構造の把握(2)
- 第6回 構造の把握(1)
- 第4回 時間軸の視点
- 第3回 メンタルモデル(2)
- 第2回 メンタルモデル(1)
- 第1回 身体モデル
- 第70回 UXを考える(6)
- 第69回 UXを考える(5)
- 第68回 UXを考える(4)
- 第67回 UXを考える(3)
- 第66回 UXを考える(2)
- 第65回 UXを考える(1)
- 第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
- 第63回 制約条件を考える(9)
- 第62回 制約条件を考える(8)
- 第61回 制約条件を考える(7)
- 第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
- 第58回 制約条件を考える(4)
- 第57回 制約条件を考える(3)
- 第56回 制約条件を考える(2)
- 第55回 制約条件を考える(1)
- 第54回 物語性について考える(9)
- 第53回 物語性について考える(8)
- 第52回 物語性について考える(7)
- 第51回 物語性について考える(6)
- 第50回 物語性について考える(5)
- 第49回 物語性について考える(4)
- 第48回 物語性について考える(3)
- 第47回 物語性について考える(2)
- 第46回 物語性について考える(1)
- 第45回 適合性について考える
- 第44回 制約条件について考える
- 第43回 サインについて考える
- 第42回 さまざまな配慮
- 第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
- 第40回 表示を観察する(1)
- 第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
- 第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
- 第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
- 第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
- 第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
- 第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
- 第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
- 第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
- 第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
- 第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
- 第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
- 第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
- 第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
- 第26回 サービスを構造的に観察する(3)
- 第25回 サービスを構造的に観察する(2)
- 第24回 サービスを構造的に観察する(1)
- 第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
- 第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
- 第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
- 第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
- 第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
- 第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
- 第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
- 第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
- 第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
- 第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
- 第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
- 第12回 70デザイン項目とアブダクション
- 第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
- 第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
- 第9回 俯瞰してHMIを観察する
- 第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
- 第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
- 第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
- 第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
- 第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
- 第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
- 第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
- 第1回 観察の方法