第23回 人間を把握する(5)
2018.04.24 山岡 俊樹 先生
我々の行動はそれを制約する存在によって影響される。この制約を知ることにより、我々の行動を構造的に把握することができる。この制約は道徳、宗教や社会の規範、あるいは物理的なものなどがあり、様々な視点から観察することができる。
今年4月に発売された野口悠紀雄著『「産業革命以前」の未来へ』、NHK出版新書で、新しい時代には企業の新陳代謝が必要で、我が国で起業が少ないのは社会の制度にあると看破している。特に、失敗したときの救済策がない。つまり、規制が多く、新しいことをやろうにもサポート体制が弱く、何もできないという状況を指摘している。
規則があるのは、その必然性があるためで、規制される方は大変だが、規制する方は基準があるので、それに従えばよい。単純な規制でも、場合によっては、時間が経過すると詳細な規制が追加され複雑化し、形式主義が形成されてゆく。法律や社内規則などは、時間が経過すると現状とそぐわなくなり、様々な軋轢や不便さを生じさせる。そのような状況を排除するには、我々の行動を制限させる規制を順次変えてゆく必要がある。
例えば、我々の身近な教育に関して、平等主義という形式主義があるようで、高校を2年で終えて大学受験したという例は一部あるが、飛び級に関して、あまり聞いたことがない。大学の方でも、一部あるが、ほとんどの学生は4年間で学業を終えている。能力ある学生は、このような縛りを無くし、早く社会に出て活躍してもらっても良いと思う。
ハンセン病患者隔離、サリドマイド事件や公害病などの社会問題は、規制の認識の仕方に問題の根底が見え隠れする。このような大きな社会問題でなくとも、我々の身の回りのことでも様々な制約がある。例えば、賃貸住宅の場合の更新料。慣習らしいのだが、なぜ、このようなシステムなのかよくわからない。
様々な規制は、できた当時は合理的な理由に基づくものであっても、時代とともに現状とのズレが生じる。それを明確にするために、その規制の趣旨を明確にしておく必要がある。それが明確になっていないと形式主義の陥穽に陥りやすい。形式のみが独り歩きをし、その理由が分からないまま無駄な時間を費やすということになる。我々の身の回りにある存在理由が不明の形式が我々を縛っている状況を観察したらどうだろうか?
意外と新たな認識を得ることができるかもしれない。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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