第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
2022.6.30 山岡 俊樹 先生
ビスマルク(Otto von Bismarck、 1815 - 1898)は経験について、ある本に以下のことばが紹介されていた。文献で確認できなかったので、ネットで調べると下記のA wise person learnsがI prefer to learnにもなっている場合もあるが、とりあえず以下のことばについて考えてみる。
"A fool learns from his experience. A wise person learns from the experience of others."つまり「愚か者は自分の経験から学ぶ。賢い者は他人の経験から学ぶ」と言っている。他人の経験から学ぶということは、書籍などを通して知識を得るということだ。歴史から学ぶということでもある。
確かにその通りで、自分の乏しい経験を基準に話す人がいるが、普遍性がない場合が多く、説得力はない。本を多く読むことにより、得た体験をそのまま自分のものとするだけでなく、それを抽象化して自家薬籠中の物にする必要がある。抽象化された情報は多くの概念を包含しているので、幅広い発想が可能となる。
サービスデザインがデザインや製品、システムの中核の存在・概念になるにつれて、発想が重要になってきている。ビスマルクが言うように自分だけの体験だけでなく、他の人々の体験をも加味して発想していくのが大切である。従来の製品やシステムは技術に立脚した存在であったので、それらの開発には技術が一番重要であった。ところが、生活が豊かになり、開発の中核がソフト系にシフトしだすと技術だけではなく、ユーザに焦点を当てた発想が重要となってきている。例えば、ラクスルという会社は、小口の印刷物件をまとめて、空いている中小印刷会社にオーダーするシステムを発想して成功している。小口ユーザと仕事にばらつきのある中小印刷会社を結び付け、新しいビジネスシステムを作った。これにより従来よりも安価で、しかも短時間で仕事を完了するのが可能となり顧客に喜ばれている。このビジネスのポイントは技術ではなく、新しい発想である。
従来の発想法がモノ、ハード系を中心としているが、新しい時代にふさわしいコト、ソフト系に焦点を絞った発想法とビジネスの作り方の本を今年4月に上梓した。
・山岡俊樹編著、サービスデザインの発想法、オーム社、2022年
・山岡俊樹、サービスデザインでビジネスを作る、技報社、2022年
上記の本の基本はフレームを介して製品・システムを発想、ビジネスを作る方法が記載されている。フレームとは手がかりを意味し、ユーザはこれを媒介にしてアイディアやシステムを発想できるようになる。多少、知識や体験が不足していても、これらのフレームにより触発されてアイディアが出やすくなる。
発想のポイントは他人依存ではなく、自分一人で考えだすことである。阪急の創始者である小林一三は自分で熟考し、従来にない新しいシステムを創出した。例えば、宝塚歌劇団、駅前デパートなど多数ある。彼の伝記を読むかぎり、部下に丸投げしてアイディアを出させたとは到底思えない。どうしても一人で発想できなければ、上記の本に紹介されている様々な手法を活用すればよい。例えば、SCAMPERや著者が開発したREM、5W1H1F(機能)1E(期待)などの手法を活用すればよい。それでも、限界を感じたならば、ブレインストーミング、ブレインライティングなどのグループ討議を行えばよい。ブレインライティングでは、新たに開発した遠隔による方法が紹介されている。本社などに討議のため関係者全員集まる必要がなく、営業所や工場で意見を出すことができる。主婦などの意見を聞きたい場合も同様のやり方で行うことができるので、開催コストを下げることができる。

図1 フレームによる発想法の構造
グループ討議や協創などでは、主催者は主体性と責任を持ち、実施しなければならない。 また、メンバーには、基本的に知識と体験が豊かな人や尖った人を入れる必要がある。同質の参加者だけにすると一般的なアイディアに落ち着くことが多いので要注意である。それを避けるために尖った人やその同質の参加者と違う人を加える。モノ・コト作りにおいて、協創などの考え方の根底には、他人依存の考え方が見え隠れする。開発プロセスに顧客にも参画してもらいアイディアを頂くというのは安直な考えではないだろうか。 顧客を徹底的に観察し思考するのが、アイディア創出の基本である。

山岡俊樹編著
サービスデザインの発想法
アイデアを生み出す15のメソッド
オーム社、2200円

山岡俊樹
サービスデザインで ビジネスを作る
デザイナー、エンジニアから中小企業経営者まで
技報堂出版、1980円
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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