第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
2022.3.31 山岡 俊樹 先生
図1は今年2月に行われた私の最終講義に使用したスライドの一部である。この図は我々の持つ「知識と体験」と「構造的見方」というフレームによって、我々はモノ・コトを判断するのを示している。知識・体験が乏しく、構造的な見方をできない人は、何を基準にして判断しているのであろうか?
知識・体験と構造的な見方は、時代の潮流によって影響を受けているので、その時代の価値観(考え方)に基づいて判断しているのだろう。例えば、家電製品を購入するのは、効率的な生活を実現したいという近代主義的な生活観のためであろう。一方、都会から脱出し田舎暮らしを始めた人は、独自の知識・体験と構造的な見方を持っており、時代の潮流にはあまり影響を受けない。私の20代のころは、自分の考え方を持っておらず、図1の2つのフレームワークの面は透明に近く、時代の潮流に影響を受けていた。しかし、年を取ると様々な体験や賢者からの箴言などから自分の考えを持つようになったと思う。しかし、この自分の考えとはいえ、制約条件の中での考えであって、時代の潮流や慣習などから影響を受けている。
知識と体験により、表面的なモノ・コトの見方ができる。例えば、自転車の場合、通常のユーザはその機能などに関する知識はあり、乗った経験もあるので、どういう機器なのかは理解している。一方の構造的な見方は我々を取り囲む全情報の中で、その機器がどのような位置づけがされているのかを認識することである。自転車ならば、どのように使われていて、それがユーザにどのような意味を与えているのかなど、あるいは社会との関わり合いを考えることでもある。
構造的な見方をするには、無限大の空間内で2点か3点の情報との関係が明確になると構造的な見方が可能となる。無限大の1点を構造的な見方とするとその情報だけでは内容を特定することができず、2点、3点により位置づけができ、意味が生じるのである。2点ならば、時間、空間であり、3点ならば、時間、空間、オブジェクト・人である。構造化するとは、これらの時間、空間、オブジェクト・人を特定することにより、下位の階層が明確になってくる。移動に関してエレベータやエスカレータならば、使用者がある空間内で効率よく、負担なく移動できるシステムとしてとらえることができる。しかし、駅や集合住宅の2階や3階上に移動する場合、このような構造でなく、歩いて上るという健康の視点で時間を考えると全く違う構造となる。時間がかかるかもしれないが、快適な移動から健康のための移動と構造的にとらえることもでき、成人病予防にもなるだろう。このような構造的な見方は様々な事象、システムやビジネスにも活用できるので検討されたい。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連サービス
関連記事一覧
- 第98回 ホリステックな考え方(8)
- 第97回 ホリステックな考え方(7)
- 第96回 ホリステックな考え方(6)
- 第95回 ホリステックな考え方(5)
- 第94回 ホリステックな考え方(4)
- 第93回 ホリステックな考え方(3)
- 第92回 ホリステックな考え方(2)
- 第91回 ホリステックな考え方
- 第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
- 第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
- 第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
- 第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
- 第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
- 第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
- 第84回 思考の硬直・停止(その5)
- 第83回 思考の硬直・停止(その4)
- 第82回 思考の硬直・停止(その3)
- 第81回 思考の硬直・停止(その2)
- 第80回 思考の硬直・停止
- 第79回 ボリューム感
- 第78回 構成の検討
- 第77回 アクセントの効用
- 第76回 活動理論の活用
- 第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
- 第74回 チェックリストの活用法(5)
- 第73回 チェックリストの活用法(4)
- 第72回 チェックリストの活用法(3)
- 第71回 チェックリストの活用法(2)
- 第70回 チェックリストの活用法(1)
- 第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
- 第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
- 第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
- 第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
- 第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
- 第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
- 第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
- 第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
- 第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
- 第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
- 第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
- 第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
- 第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
- 第55回 温かいデザイン(31)
- 第54回 温かいデザイン(30)
- 第53回 温かいデザイン(29)
- 第52回 温かいデザイン(28)
- 第51回 温かいデザイン(27)
- 第50回 温かいデザイン(26)
- 第49回 温かいデザイン(25)
- 第48回 温かいデザイン(24)
- 第47回 温かいデザイン(23)
- 第46回 温かいデザイン(22)
- 第45回 温かいデザイン(21)
- 第44回 温かいデザイン(20)
- 第43回 温かいデザイン(19)
- 第42回 温かいデザイン(18)
- 第41回 温かいデザイン(17)
- 第40回 温かいデザイン(16)
- 第39回 温かいデザイン(15)
- 第38回 温かいデザイン(14)
- 第37回 温かいデザイン(13)
- 第36回 温かいデザイン(12)
- 第35回 温かいデザイン(11)
- 第34回 温かいデザイン(10)
- 第33回 温かいデザイン(9)
- 第32回 温かいデザイン(8)
- 第31回 温かいデザイン(7)
- 第30回 温かいデザイン(6)
- 第29回 温かいデザイン(5)
- 第28回 温かいデザイン(4)
- 第27回 温かいデザイン(3)
- 第26回 温かいデザイン(2)
- 第25回 温かいデザイン(1)
- 第24回 人間を把握する(6)
- 第23回 人間を把握する(5)
- 第22回 人間を把握する(4)
- 第21回 人間を把握する(3)
- 第20回 人間を把握する(2)
- 第19回 人間を把握する(1)
- 第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
- 第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
- 第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
- 第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
- 第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
- 第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
- 第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
- 第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
- 第10回 3つの思考方法
- 第9回 潮流を探る
- 第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
- 第7回 構造の把握(2)
- 第6回 構造の把握(1)
- 第5回 システム的見方による発想
- 第4回 時間軸の視点
- 第3回 メンタルモデル(2)
- 第2回 メンタルモデル(1)
- 第1回 身体モデル
- 第70回 UXを考える(6)
- 第69回 UXを考える(5)
- 第68回 UXを考える(4)
- 第67回 UXを考える(3)
- 第66回 UXを考える(2)
- 第65回 UXを考える(1)
- 第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
- 第63回 制約条件を考える(9)
- 第62回 制約条件を考える(8)
- 第61回 制約条件を考える(7)
- 第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
- 第58回 制約条件を考える(4)
- 第57回 制約条件を考える(3)
- 第56回 制約条件を考える(2)
- 第55回 制約条件を考える(1)
- 第54回 物語性について考える(9)
- 第53回 物語性について考える(8)
- 第52回 物語性について考える(7)
- 第51回 物語性について考える(6)
- 第50回 物語性について考える(5)
- 第49回 物語性について考える(4)
- 第48回 物語性について考える(3)
- 第47回 物語性について考える(2)
- 第46回 物語性について考える(1)
- 第45回 適合性について考える
- 第44回 制約条件について考える
- 第43回 サインについて考える
- 第42回 さまざまな配慮
- 第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
- 第40回 表示を観察する(1)
- 第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
- 第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
- 第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
- 第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
- 第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
- 第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
- 第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
- 第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
- 第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
- 第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
- 第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
- 第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
- 第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
- 第26回 サービスを構造的に観察する(3)
- 第25回 サービスを構造的に観察する(2)
- 第24回 サービスを構造的に観察する(1)
- 第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
- 第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
- 第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
- 第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
- 第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
- 第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
- 第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
- 第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
- 第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
- 第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
- 第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
- 第12回 70デザイン項目とアブダクション
- 第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
- 第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
- 第9回 俯瞰してHMIを観察する
- 第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
- 第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
- 第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
- 第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
- 第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
- 第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
- 第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
- 第1回 観察の方法