第70回 チェックリストの活用法(1)
2022.7.29 山岡 俊樹 先生
チェックリストは様々な分野のモノ・コトのチェックのため使われている。一番よく使われているのが、安全にかかわるシステムのヒューマンエラーなどのチェックである。チェックリストには、ある情報・システムに対して適切か否か調べる点検型とその対策を提示するアクション型がある[1]。例えば、駅やデパートの床に関して、点検型は「滑らないように配慮する」、一方のアクションチェック型は「ノンスリップの素材の活用やコンクリートならば、はつり仕上げ(表面を凹凸にする)にする」などが考えられる。
チェックリストを作る際、
①チェック項目を分かりやすく短い文にする
②チェックする環境の文脈を考慮する
ことが大事である。
チェック項目が長いと読む気がせず、適当に処理される可能性がある。文脈を考慮するとは、様々な人々が使う鉄道駅・空港などで一般的な制約条件(建築基準法他)に適応するのではなく、その使用環境も考えて社会的弱者他も配慮してチェックリストを作るという意味である。JR京都駅の烏丸口の床が雨の時、滑りやすく困っていると全盲者から指摘を受けたことがある。
狭い意味でのチェックリストではなく、これを展開させて以下の体系を作成した。チェックリストを使う際の注意事項は以下の通り。
①実際に体験するのが基本である
②チェックリストを使うための予備知識がない場合、チェック項目の解説文を加える
1.システムを簡単にチェックしたい
大まかなチェック項目で、YES-NOでチェックする。
例:会議やセミナーなどでの出欠、安全対策の可否など
2.システムを詳細な項目でチェックしたい
(1) 1の項目の下位の項目で、YES-NOでチェックする
例:安全対策の下位の項目であるフールプルーフ設計の可否など
(2) 決定木(decision tree analysis)
YES-NOの解答を階層にして表示したもの。
(3) 時間を考慮したチェックシート(表1)
システムやタスクに対して時系列に評価していく方法である。

3.システムやその下位システム(パーツなど)に対し、多段階の評価をしたい
YES-NOではなく、3段階、5段階などでの評価を行う
例:スイッチの押しやすさに関して、「良い-普通-悪い」の3段階
4.システムに対し、多段階の評価を行い、総合点を求めたい
(1) SUS (System Usability Scale) を使う
システムの使いやすさを調べる方法である。10の評価項目が肯定と否定の表現が交互に並び、奇数の項目は肯定の見方なので評価値から1点を引き、偶数の項目は否定の見方なので満点の5点から評価値を引く。このように得た数値を合計して2.5倍すると100点満点中の得点が分かる。
詳細は、拙著「デザイン人間工学」p.95-97, 共立出版, 2014を参考にされたい。
(2) NASA-TLX (NASA Task Load Index)を使う
主観によるメンタルワークロードを調べる方法である。評価者は作業後に評価項目に対する評価を行い、評価項目のウエイト値を定め、評価値に評価項目のウエイト値をかけて最終評価値を求める。
5.評価項目のウエイトを変えて評価したい (前述の1-4の評価項目は同じウエイトである)
2つのやり方があり、一つは表3に示す簡易法、もう一つはAHP(Analytic Hierarchy Process)がある。ここでは簡便な簡易法を紹介する。
(1) タスク分析
コンセプトの方針に基づき、各タスクに対しウエイト値を決めて合計値を求める。この合計値により製品間の評価が可能である(表2)。

(2) ウエイトを調べる方法
① 簡易法(表3)
直観でウエイト値を決めてもいいが、簡単な方法があるので、これを参考にされたい。

表3の場合、4項目のうち2項目ずつ評価を行い、良い方を1にし、そうでない方は0にする。1の総数を合計の欄に記入し、その比率を求めるとどの項目が重要か分かる。
② AHP(Analytic Hierarchy Process)
説明は、拙著「デザイン人間工学」p.105-108, 共立出版, 2014を参考にされたい。
6.データを行列(マトリックス)にしたものを解析する
(1)ストーリーチェックリスト(山岡)
ストーリー風に質問を決めて、設問に対し違和感なく回答してもらうようにしたもの。
例:この製品は
[モダンデザイン(M)、ソフトデザイン(S)、機能的デザイン(F)]で、
[温かいデザイン(W)、冷たいデザイン(C)、普通のデザイン(O)]のため、
[わくわく感(E)、存在感(SE)、無存在感(N)]の特性がある。
該当するところに〇を付けて線で結ぶ。数人の評価者で行う場合、過半数を得た時〇にする。これを行列(マトリックス)に1、0で配置し、ISM(Interpretive Structural Modeling)で処理をすると下記の図となる。

図1 評価項目間の関係(矢印で結ばれた関係は関係があり)

図2 項目間の関係図(ソフトデザインが全体に影響を与えているのが分かる)
評価項目MからNまでを行列の列頭、行頭にそれぞれ配置し、項目間の関係を各セルに1、0(関係あれば1、なければ0)で入力する。このデータからISMで解析すると図2のような関係を把握することができる。(2)ブール代数アプローチ
評価項目を3(または4)つにして、システムの評価と総合評価(購入したいなど)を行い、高い総合評価を得るための評価項目の組み合わせを求めることができる(表1と同じスタイル)。何人かの評価者は3つの評価項目を使ってYES-NOの評価を行い、その結果(購入したい)もYES-NOの評価を行う。これらの1、0のデータは真理表にして、クワイン・マクラフスキー法によって解く。ブール代数を使うが解法は簡単である。
次回以降、チェックリストを展開させた観察法などを紹介していきたい。
今回紹介した手法他で詳しく知りたい方は、山岡(tyamaoka6@gmail.com)までご連絡ください。本コラムで詳しい説明をしたいと思います。(@は半角にしてください。)
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連サービス
関連記事一覧
第102回 ホリステックな考え方(12) 全体と部分の関係
第101回 ホリステックな考え方(11) 目利きの能力
第100回 ホリステックな考え方(10) 絞込み思考
第99回 ホリステックな考え方(9) 目利きの重要性
第98回 ホリステックな考え方(8)
第97回 ホリステックな考え方(7)
第96回 ホリステックな考え方(6)
第95回 ホリステックな考え方(5)
第94回 ホリステックな考え方(4)
第93回 ホリステックな考え方(3)
第92回 ホリステックな考え方(2)
第91回 ホリステックな考え方
第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
第84回 思考の硬直・停止(その5)
第83回 思考の硬直・停止(その4)
第82回 思考の硬直・停止(その3)
第81回 思考の硬直・停止(その2)
第80回 思考の硬直・停止
第79回 ボリューム感
第78回 構成の検討
第77回 アクセントの効用
第76回 活動理論の活用
第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
第74回 チェックリストの活用法(5)
第73回 チェックリストの活用法(4)
第72回 チェックリストの活用法(3)
第71回 チェックリストの活用法(2)
第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
第55回 温かいデザイン(31)
第54回 温かいデザイン(30)
第53回 温かいデザイン(29)
第52回 温かいデザイン(28)
第51回 温かいデザイン(27)
第50回 温かいデザイン(26)
第49回 温かいデザイン(25)
第48回 温かいデザイン(24)
第47回 温かいデザイン(23)
第46回 温かいデザイン(22)
第45回 温かいデザイン(21)
第44回 温かいデザイン(20)
第43回 温かいデザイン(19)
第42回 温かいデザイン(18)
第41回 温かいデザイン(17)
第40回 温かいデザイン(16)
第39回 温かいデザイン(15)
第38回 温かいデザイン(14)
第37回 温かいデザイン(13)
第36回 温かいデザイン(12)
第35回 温かいデザイン(11)
第34回 温かいデザイン(10)
第33回 温かいデザイン(9)
第32回 温かいデザイン(8)
第31回 温かいデザイン(7)
第30回 温かいデザイン(6)
第29回 温かいデザイン(5)
第28回 温かいデザイン(4)
第27回 温かいデザイン(3)
第26回 温かいデザイン(2)
第25回 温かいデザイン(1)
第24回 人間を把握する(6)
第23回 人間を把握する(5)
第22回 人間を把握する(4)
第21回 人間を把握する(3)
第20回 人間を把握する(2)
第19回 人間を把握する(1)
第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
第10回 3つの思考方法
第9回 潮流を探る
第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
第7回 構造の把握(2)
第6回 構造の把握(1)
第5回 システム的見方による発想
第4回 時間軸の視点
第3回 メンタルモデル(2)
第2回 メンタルモデル(1)
第1回 身体モデル
第70回 UXを考える(6)
第69回 UXを考える(5)
第68回 UXを考える(4)
第67回 UXを考える(3)
第66回 UXを考える(2)
第65回 UXを考える(1)
第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
第63回 制約条件を考える(9)
第62回 制約条件を考える(8)
第61回 制約条件を考える(7)
第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
第58回 制約条件を考える(4)
第57回 制約条件を考える(3)
第56回 制約条件を考える(2)
第55回 制約条件を考える(1)
第54回 物語性について考える(9)
第53回 物語性について考える(8)
第52回 物語性について考える(7)
第51回 物語性について考える(6)
第50回 物語性について考える(5)
第49回 物語性について考える(4)
第48回 物語性について考える(3)
第47回 物語性について考える(2)
第46回 物語性について考える(1)
第45回 適合性について考える
第44回 制約条件について考える
第43回 サインについて考える
第42回 さまざまな配慮
第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
第40回 表示を観察する(1)
第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
第26回 サービスを構造的に観察する(3)
第25回 サービスを構造的に観察する(2)
第24回 サービスを構造的に観察する(1)
第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
第12回 70デザイン項目とアブダクション
第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
第9回 俯瞰してHMIを観察する
第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
第1回 観察の方法