第31回 温かいデザイン(7)

2018.12.25 山岡 俊樹 先生

 通常のデザインプロセスとして、デザインした製品の外観をチェックするために、モデル(外観を確認するための試作品)を外部のモデル屋さんに制作してもらうことが多い。20代の頃、後輩のデザイナーと一緒にモデルをチェックするためにモデル屋さんに向かった。向かう途中、後輩が手土産を持っているので、聞くとモデル屋さんに気持ちよく仕事をしてもらうためと聞き、衝撃を受けた。その当時は無意識的に合理主義の考え方に染まっていた。しかし、この場合、ビジネスといえど相手は一人でやりくりしているモデル屋さんなので、人対人の関係が濃かったためと思われるが、こういう考え方があるのかと思った次第である。その当時はアメリカ風のビジネスライクの行為は新鮮に見えていたが、現在、このようなベクトルは我が国の風土に馴染まないような気がする。我が国は農耕を中心として発展してきたので、人々の和が特に重要視される。相手に対する「もてなす心」、つまり「感謝の心」は日本文化の伝統で、今後守っていかねばならないと考えている。この心は温かいデザインにも通じる。

 製品やシステムに対しても、使用者と一体となるような温かい感覚・コミュニケーションが大事であろう(図1)。図2は私が愛好している万年筆とボールペンである(図2)。特に、万年筆の方は30年前、ヨーロッパに出張した際、購入したペリカン製の安物である。色は青で冷たい感じがするが、一体感があり、温かいコミュニケーションとなっている。

 通常、価格で商品の価値をつけるが、そうではないだろう。使用者にとって一番相性の良い商品が一番価値があるはずである。人と製品・システムとの間の良いコミュニケーションは、今後の製品・システムを考えるうえで重要なデザインの検討要素である。製品・システムを通じて、人と人とのコミュニケーションを容易に生じさせるのも温かいデザインの機能である。今回紹介するMUI(図3)は木のぬくもりを感じさせる優しいIoTデバイスである。これはユーザとの温かいコミュニケーションを生じさせる温かいデザインの商品でもある。詳細は
https://mui.jp/ks-ja/kickstarter-ja.html で確認してほしい。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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