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2019年5月30日(木)

構造的にとらえる

第33回 温かいデザイン(9)

 昨年7月、米国に学会発表のため出張した際、ニューヨーク近代美術館(MOMA)に立ち寄った。そこではBODYS ISEK KINGELEZによるCITY DREAMSという展示会が開催されていた。KINGELEZ氏はコンゴ民主共和国出身のアーティスト他(本人はデザイナー、建築家、エンジニア及びアーティストと言っている)であるが、効率に支配されたガラスと鉄による都市から、感性豊かで、おおらかな都市空間の提案をしていた(図1)。

図1. BODYS ISEK KINGELEZによるCITY DREAMS

 このようなモダンデザインを超えた、より人間的、有機的なデザインが目に付くのは、ここ数年のことである。シンプルで無駄がなく、理路整然としたモダンデザインは、21世紀の効率の追求という経済至上主義の価値観に適合した見方と考えることができる。一方、21世紀では生活が豊かになり、マズローの欲求五段階説の最上位の自己実現のレベルになると、多様性が重要なキーワードとなってきている。ワーク・バランス、在宅ワーク、フリーランスなどの多様な働き方、地方へ移住、同性婚などの多様な生き方が、21世紀になると抵抗なく人々に受け入れられるようになった。温かいデザインはこの多様性の基盤の上で成立し、「多様性」→「人間性の尊重」→「温かいデザイン」という構造になっていると考えている。多様性の考え方は、大雑把に言ってダニエル・ピンクの書籍「ハイコンセプト」で述べているベクトルと符合しているだろう。

 ただ、我が国の場合、農耕民族のため集団を重んじる傾向が強く、そのため様々な制約が多く、同一行動を要求されてきたので、多様性に対して違和感、ストレスが生じる可能性が高い。例えば、バレンタインデー、ハロウィンなどで、なぜあれだけ盛り上がるのであろうか?商業主義の影が見え隠れするにもかかわらず、そういうのに背を向けると変わり者と冷笑、揶揄される風土がある。このように見てゆくと農耕文化の残滓が様々なところで見て取れる。農耕をベースにする社会では毎年同じことの繰り返しなので、何も考える必要が無く、ある意味では楽な生活である。これは共同体としての温かいデザインともいえるかもしれない。この温かい共同体の体質が、20世紀の効率化により冷たい共同体に変質してしまった。自殺の増加、無差別殺人などがこの現象を裏付けている。21世紀では、この温かい共同体の再生とそれに立脚した多様化を実現させる必要があるだろう。今後、我々はこの動きを観察し、注視してゆく必要がある。

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