第111回 ホリステックな考え方(21) 全体・部分・時間の関係(その2)

2025.12.25 山岡 俊樹 先生

 前回に引き続き、全体・部分・時間の関係を深耕したい。我々が思考する際、どのような骨組みで行っているのだろうか?私の経験からすると、その時の現象や発言に対し、そのレベルの対応をしてしまうことが多い。例えば、営業成績が悪い、テストの成績が悪い場合、もっと頑張って成績を上げろなどと対応してしまう。この時、起きた現象に対し、よりマクロ(全体)の視点からその現象を構造的にとらえることができれば、どうすべきか対応できる。
 「全体、部分、時間」から思考する時、どのようにアプローチすべきか例を挙げて説明したい。部分は全体の一部であり、時間は全体と部分の変化に係る。部分が時間を通して構造化されて全体となる。逆に言えば、全体が時間を通して部分に分解される。

1.基本構造(時間→部分→全体)
 最初に時間から考え、部分を把握し全体を推定する。時間は過去と未来への2つのパターンがあるが、未来の場合、部分、全体も推定にとどまるので確実性はかなり低い。過去をメインに考えていく。

①時間: 過去のある地点に戻り、そこの過去の情報にアプローチする
②部分: 過去のある情報を抽出する
③全体: 過去のある情報から全体を推定する

 つまり、過去の世界に戻り、その情報を抽出し、それから新しい視点で全体の情報を構築する。

<具体例>
①過去のさまざまな成功体験や特許情報などにアプローチする(時間)
②その成功体験、新技術のネタを抽出する(部分)
③それらの情報から新製品やシステムの構想をまとめる(全体)

 ドラッカーはグーテンベルグの印刷技術から現在までの社会の動向を調べ、NPOの有効性を提唱し、彼の言うとおりになった。つまり過去の歴史の長期スパンから現在の状況を理解することの重要性を示している。

<難易度>
 ある程度の難しさはあるが、時間をかけて行うことができ、確実な方法とも言える。

543_01.jpg


2.基本構造(時間→全体→部分)
 最初に時間から考え、全体を把握し、部分を特定する。

①時間: 過去のある地点・期間に戻り、過去の情報にアプローチする
②全体: 過去の大きな潮流・思考(全体)を抽出する
③部分: 過去の全体情報から部分を絞り込み把握する

 この考えは、後述の4.基本構造(全体→時間→部分)に類似している。ただ全体の情報は過去に存在していたという認識である。

<具体例>
①過去に起きた思考、パラダイム変換や様式の変化(バロック様式など)などにアプローチする
②そこでの骨組みを押さえる(全体)
③それらの骨組みから絞り込んで、あるいは基にして新製品・建築・デザインなどに落とし込む

<難易度>
 よく行われている方法なので、難易度はあまり無い。


3.基本構造(部分→時間→全体) 例: 観察、技術開発、健康、人間関係など
 部分から時間をかけて全体を推定する。全体から部分には容易であるが、部分から全体は一意性が無く決められない。与条件(制約)を与えないと全体把握が困難なので、思考力を要する。

①部分: 部分に対し、着目、発想する
②時間: 時間をかけて部分を検討し全体を推定する
③全体: 全体を把握

543_02.jpg

 部分(例: 技術のアイディア)に対し時間をかけて検討し、全体を明確にする。

<具体例>
・株式投資
①株式投資で、ある部分情報(気配値・歩み値)(部分)に着目する(部分)
②時間をかけて、あるいは瞬時に検討する(時間)
 与条件は投資家の方針となる
③部分情報から全体(売買先の相場)を推定し(全体)、売買を判断する

・技術開発
①新技術を発見する(部分)
②時代の潮流や過去の情報を調べ(与条件)、有効性を検討する(時間)
③斬新な新製品を構築する(全体)

・健康管理
①体重や血圧などの身体の部分に関する情報(部分)
②時系列に調べる(時間)。与条件は本人の感じる体調
③身体各部の情報から身体全体の状況を把握する(全体)

・気配り(人間関係)
①相手が困っている状況(例: 気がついていない)(部分)
②引き続き困っている様子(例: そのまま)(時間)
 困っているレベルが高くなると、それが与条件となる
③それらの様子から困っている全体を理解し対応する(例: 相手から怒られ、やっと気がつく)(全体)

<難易度>
 図2に示すように、幕の内弁当(全体)と決めれば、その構成部分(ご飯+おかず)は決まる。しかし、その逆は一意的に決まらない。「ご飯+おかず」では「おにぎり弁当」「幕の内弁当」「さまざまな弁当」となり決まらないので、与条件(制約条件)を与えなければならない。与条件は目的・方針・コンセプトなどの制約事項である。例えば、列車の中で食べるという目的(与条件)を与えれば、駅弁となり絞り込むことができる。

 このように部分から全体には、部分間の関係が不明のため全体を決めるのが難しい。そこで、このような部分から全体を推定するには与条件(目的・方針・コンセプトなどの制約条件)を加えなければならない。
 気が利くというのは、相手の状況(部分)に常に気がつき、相手と本人の関係(全体)を把握し対応できることである。そのためには人間観察が大事で、この体験をした人ほど気が利く。気が利かない人に与える与条件(制約条件)は何だろうか?それは相手の立場(全体)を常に心がけることである。


4.基本構造(全体→時間→部分) 例: モノづくり、ビジネス活動や行動全般
 方針(全体)を決めてから時間をかけて検討し、詳細(部分)を絞り込む方法である[1]。モノづくり、ビジネス活動、日常生活や行動全般など幅広く活用されている。

①全体を決める(全体=目的)
②全体から時間をかけて部分を絞り込んでいく(時間)
③部分を特定する(部分=解決案(建築、デザイン、ビジネス案、行動))

543_03.jpg

 全体(目的など)に対し時間をかけて検討し、部分(解決案など)を明確にする。

<具体例>
・建築や各種デザイン
①目的とコンセプトを作る(全体)
②コンセプトを分解する(コンセプトの階層化)(時間)
③分解されたコンセプトから解決案(デザイン案=部分)を構築する

・ビジネス案
①ビジネスの目的とコンセプトを作る(全体)
②コンセプトを分解する(時間)
③分解されたコンセプトから解決案(ビジネス案=部分)を構築する

 コンセプトの作り方には、トップダウンとボトムアップの方法がある[2]。状況から思考しコンセプトの最上位項目を決めて、それを分解(目的→手段)していくトップダウン方法がある。一方、その逆の観察やインタビューなどにより得たユーザ要求事項を基にボトムアップ式(手段→目的、あるいは下位項目の内包を上位項目にする)にコンセプトを作る方法がある。トップダウン方式は企画者の願望をベースに作られ、ボトムアップ方式は現状の問題点やユーザニーズをベースに作られる特徴がある。

・報告書を書く
①現地での概要の報告書を作成する(全体)
②時代の流れや過去の情報を調べる(時間)
③詳細を書き完成させる(部分)

・日常の行動(買い物)
①おいしい夕食を作る(全体)
②①の考え方に基づき料理をする(時間)
③家族の好きなカレー料理が完成(部分)

 塚越寛氏(伊那食品工業最高顧問)は日経ビジネス誌の有訓無訓にて、「会社の目的は利益ではなく「社員の幸せ」 年輪のような成長が会社を強くする」[3]と述べている。目的が明確なので経営の決断にブレは無いと言い切っている。そのため従業員は自発的に地域共存、敷地内の掃除などさまざまな行動をとっている。
 我々はミクロの視点(部分)で考えるのが日常、普通なので、なかなかマクロの視点(全体)で考えるのが得意ではない。しかも森林の民でもあるので、砂漠の民と違ってマクロの視点が弱いという指摘はうなずける[4]。マクロの視点は今後の複雑なグローバル化社会を生き抜くためにも必要なベクトルである。

<難易度>
 目的・コンセプトから思考するのは、一番合理的でありシステム思考と言ってよい。しかし、我々は部分から考えるのに慣れており、なじみが無いので比較的難易度は高いかもしれない。
 前号にも書いたが、社会レベルの大きなシステムの場合は、回り道の考え方の方がよい。製品開発や日常生活ではシステム思考の方が論理的で無駄が無い[5][6]。
 このシステム思考は我が国では十分知れ渡り理解されている方法ではないが、今後のモノづくりでは、環境などの検討項目が多くなりシステム思考の重要性が認識されるだろう。


5.まとめ
①時間→部分→全体
 [部分→全体]は一意性が無く、全体を把握するのは難しい。しかし過去のデータ・文脈を対象・基礎にしているので、それが制約(与条件)になりそれほど難しくはないかもしれない。過去の成功体験や特許情報などの活用に有効である。

②時間→全体→部分
 過去の全体情報(思考、パラダイム、様式など)を押さえ、それを絞り込んで、あるいは基にして部分(新しいシステムづくりや美術運動など)を具現化することができる。

③部分→時間→全体(全体情報が不明の場合: 株式投資、技術開発などに有効)
 [部分→全体]は一意性が無く、①のような関連情報があまり無いので、与条件(制約条件)を入れることにより、部分間の構造が明確になり全体を把握することができる。この思考は一般的と思われるが、部分間の構造をどうするのか考えるとよい。

④全体→時間→部分(全体情報が明確の場合: システム構築・モノづくりなどに有効)
 [全体→部分]は合理的な思考方法である。我が国ではなじみが無いが、マスターすれば論理的な思考が可能となる。全体が決まれば、部分はその中にあるので絞り込みをすれば部分(解決案)を容易に特定することができる。


<参考文献>
1.山岡俊樹, 絞り込み思考, PP.18-32, あさ出版, 2025
2.山岡俊樹, 絞り込み思考, PP.88-100, あさ出版, 2025
3.日経ビジネス, P.5, 9.23号, 2024
4.鈴木秀夫, 森の思考・砂漠の思考, 日本放送出版協会, 1978
5.山岡俊樹, システムデザイン方法, 特集/システムデザイン方法, P.1, デザイン学会研究特集号, 第22巻1号, 通巻85号, 日本デザイン学会誌, 2015
6.山岡俊樹, デザイン人間工学に基づく汎用システムデザインプロセス, PP.2-11, 特集/システムデザイン方法, P.1, デザイン学会研究特集号, 第22巻1号, 通巻85号,日本デザイン学会誌, 2015

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連サービス

関連記事一覧