第107回 ホリステックな考え方(17) 5W1H1F1Eの方法および全体と部分の関係

2025.9.2 山岡 俊樹 先生

 前回、世の中の潮流となるマクロ情報を求める方法を述べたので、その中の5W1H1F1Eを使った具体的方法および全体と部分の関係を示す。

1.5W1H1F1Eから世の中の潮流を推定する
(1) 5W1H1F1Eから世の中の潮流を推定する
 5W1H1F1Eは、who(誰)、why(なぜ)、when(いつ)、where(どこで)、what(何を)、how(どうやって)、F(Function、機能)、E(Expectation:願望)の意味である。5W1HはF(機能)にまとめ、さらにE(願望)に収斂する。5W1Hのキーワードは様々な場合が想定されるので、必要な項目だけ使えばよい。

 例えば、5W1H「日常の生活あるいは業務から離れて、旅行したい」場合を考えてみよう。さらに絞り込み「時間が空いたとき、日常生活から離れるため、地方に鉄道で旅行したい」と希望したとき、機能(F)として「旅行する」、願望(E)として「新しい体験をする」と考えられる。勿論、これらの項目以外でも可能である。願望は目的でもあるが、目的を考えると「毎日の単調生活から逃れてリフレッシュする」などの項目が考えられる。さらにその上位概念を考えると「人生の活性化」などが思いつく。

 同様に、5W1H「新入社員が入社3ケ月後にやめる率が高い。または社員の転職率が高い」現象を考えてみたい。機能(F)として「退職・転職」、願望(E)として「自分のやりたい仕事につく」が考えられる。目的として「やりがいある仕事をする」となるだろう。するとその上位概念は「人生の活性化」と旅行の場合と同じ項目が生じる。

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図1 5W1H1Fの展開

 図1に示す通り旅行と退職・転職が結びつき、人生の活性化というマクロのキーワードを得ることができた。まだこれだけではデータが不十分で様々な観点からのデータを補強していく必要がある。

 この図の良いところは、最上位項目である「人生の活性化」、目的、願望のところで、さらに展開した別のアイディア(斜体部分)が生まれることである。従来の発想法であるブレインストーミングなどは出たとこ勝負で人数・時間をかけた割に良いアイディアが生まれない場合が高い。異質のメンバーを加えないと斬新なアイディアは生まれにくいからだ。また、文章化しないまま発言するので、思いつきのアイディアが多くなってしまう傾向がある。一方、ブレインストーミングの変化形である、ブレインライティングはアイディアを書いて展開していくので、日本人の感覚に合うのではないかと思う。

(2) 様々なキーワードと時間軸から世の中の動向を探る
 世の中の動向を探るとき、マクロ的な指針となるDEI(Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性))やPEST(Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術))などのキーワードをベースに考えるとよい。もともとは企業・組織やマーケティングの分野で使われているキーワードであるが、汎用性が高いので活用すると良いだろう。

 また、時間軸で考えるのも妥当だ。モダニズムの考え方が弱まり、現在は脱モダニズムの時代といわれているが、それほど明確になっているわけではない。

表1 効率から許容・多様性へ

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 表1は20世紀の効率から21世紀の許容・多様性への変容について整理した表である。生活が豊かになれば、生活の自由度が上がり様々な価値観が生まれ、多様化が進む。多様化を可能にするのは許容、つまり利他の心である。1つの価値観で人々を縛ることは無理である。そうなると、他人任せの人生ではなく、自分なりのライフスタイルを確立することが大事となる。旧ソ連体制下で、何も考えなくとも生活できたので良かったという人々がいた。確かに考えなくとも生活できるので楽ではあるが、たった一度の人生で自分のしたいことをするのが一番大事ではないだろうか。

2.全体は部分から構成されている
 今年2月のコラムに記載したが、インドの哲人クリシュナムルティ(Krishnamurti, 1895-1986)は我々が特定のものを全体から切り離すとき、その特定のものがそれ自身の問題を引き起こすという。そのため全領域に気づくというのは、特定のものを見、同時にそれと全体との関係を理解することであると述べている[1]。この指摘はまさしく正鵠を得ている。常に全体との関係からモノゴトを考えなくてはならない。

 逆に部分から全体を考える際、その全体が一意的に定まらないことである。例えば、食材として、手元に梅干し、ミカンおよびニンニクがあった場合、どんな料理が作れるだろうか?通常は目的を決めて食材(部分)を選択し、料理(全体)としてまとめる。しかし、モノづくりでは目的・コンセプトを明確にしないで、あいまいなままパーツを組み合わして、製品(全体)を作っている場合がないだろうか?ある機能(部分)に意識が集中し、全体を考慮せずに製品を作ってしまう。一体、誰が使うのか不明な製品を見かけることがある。

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図2 目的が無いと全体が定まらない

3.全体と部分の関係は構造化されている(システムの場合)
 全体と部分は構造化されていないとモノ・コトづくりはできない。部分が固定せず流動化し、全体として体裁をとっているケースがあるかもしれないが、多くはないだろう。よく行われている箇条書きでは全体を特定できない。その理由は各要素(部分)のウエイト付けがされていないためである。ウエイト付けがされていないと、モノやコトの方向が不明となる。それを避けるために筆者はウエイト付けされた階層を構造化といい、コンセプトではなく構造化コンセプトとい定義している[2]。料理でそれぞれの食材に対して、どの程度のコスト(費用)が必要か考えるが、これがウエイト付けであり構造化である。

 例えば、梅おむすびを企画する際、梅干し、ご飯、海苔のそれぞれのコスト比(重要性の比率)が構造化の要件となる。それぞれの食材の必要とする重量は考慮に入れなければならないが、それらの品質も考慮しなければならない。つまり、それぞれの食材のコストが一番重要となる。例えば、サイズの大きいコストパフォーマンスの良い梅おにぎりを企画するならば、ご飯のコスト比を大にして、梅干しと海苔のコスト比は小にするなどの戦略をとるのが普通である。

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図3 構造化されることにより全体が定まる

<参考文献>
1. クリシュナムルティ, 松本恵一(訳), 自己の変容, p.81, めるくまーる, 1992
2. 山岡俊樹, 絞り込み思考, pp.88-100, あさ出版, 2025

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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