第112回 ホリステックな考え方(22)
2026.1.26 山岡 俊樹 先生
前回、提案した「全体・部分・時間」の概念に関して、以下のように一部変更したい。
①時間→部分→全体
②時間→全体→部分
③部分→時間→全体を変更して、部分→全体→時間
④全体→時間→部分を変更して、全体→部分→時間
③部分→全体→時間と④全体→部分→時間の時間は、未来に続く時間である。①と②の時間は過去へだが、③と④は未来につながる時間である。このように整合性をとった。
以上の関係を図1に示す。①時間(過去)→部分→全体では、部分は過去であり、最終解である全体は現在である。この現在の全体は未来へもつながる。

この未来である時間は、現在から予測される事項である。例えば、製品ならば、製造・販売を介して顧客に行き渡るまでの時間であり、顧客の使用時間であり、廃棄後の時間でもある。
以上、整理すると以下のようになる。①、②はさらに時間(未来)を付け加えても良い。
①時間→部分(過去)→全体(現在)
②時間→全体(過去)→部分(現在)
③部分(現在)→全体(現在)→時間(未来)
④全体(現在)→部分(現在)→時間(未来)
この4つのプロセスを使うことにより、従来無意識に考えていたことが、構造的に把握できるようになる。構造的に把握できることは、目的・本質を認識できるようになるので各種デザイン、モノ・コトづくりや発想、思考に対して効果的である。
ホリステックの視点の重要性
世の中の動向をみているとミクロの視点だけでなく、マクロつまりホリステックの視点が大切であると考えざるをえない。VUCAの時代になり、近視眼的な対応では対処できなくなった。
ホリステックの視点として、ビジネスにおけるパーパス(purpose)という概念がある。従来は目的という意味であるが、より意味を広げ「企業の存在理由」の意味で使われ始めている。つまり、社会にとって、その企業の存在理由があるのかという本質を問われている。パーパスを企業に限定するのではなく、広くとらえるとインクルーシブデザイン、SDGs、企業のグローバルな視点など多数みることができる。
以下、パーパス(purpose)、インクルーシブデザイン(inclusive design)、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)、農水産業のグローバル戦略について述べる。
(1)パーパス(purpose)
パーパスは企業の「存在理由」の意味である。なぜ、この会社は存在しているのか、その原点が問われる厳しい社会状況がある。そのためマインドセットを変えなくてはならない。お金儲けしていればいいという時代ではなく、社会にどのように貢献できるのか問われている。消費者が製品やサービスを購入する際に、それらの属性(価格、品質など)よりも、企業の姿勢・ビジョンが問われるようになっている[1]。
この件で思い出すのが、ホンダ技研工業の創始者である本田宗一郎の考えだ。会社は社会の公器であり、ホンダという名前を社名につけたのは失敗だと述べている。また、経営者の世襲制を否定している。このような大局観を持った経営者はあまりみたことがない。
企業を近視眼的にとらえるのではなく、マクロ: ホリステックの視点からとらえる時代に変わってきている。そうしないと消費者から共感をえられないからだ。この共感は非常に大事なキーワードで次に述べるインクルーシブデザインでも同様である。
(2)インクルーシブデザイン(inclusive design)
パーパスと同様にホリステックの視点から位置づけられるのがインクルーシブデザインである。同じ概念として、ユニバーサルデザイン(universal design)とデザイン・フォー・オール(design for all)がある。基本的な考え方は同じであるが、若干差異がある。
①インクルーシブデザイン
「持続可能性という考え方とホリステックな全体的アプローチをその思想に包含している」[2]
②ユニバーサルデザイン
「可能な限りすべての人々に、デザイン上の特別な変更や適応をすることなく、使用を可能とするプロダクトと生活環境のデザイン」[3]
③デザイン・フォー・オール
「人間の多様性、社会的包括、平等のためのデザイン」[4]
インクルーシブデザインの3原則を以下に示す[5]。
①排除の認識
②多様性から学ぶ
③一人のユーザのために解決案を考え、それを多数の人に広げる
デザインを安易に考えると排除を生む可能性がある。通常、大多数のユーザを視野に入れてデザインをするが、排除されるユーザがいる。きれいにデザインされた家電製品の操作部でも、視覚障がい者の場合、使用を排除されることがあるだろう。そのため、多様な人々がいることを知らなければならない。排除される人々をなくすには、一人の障がい者に対する解決案を考え、それを多数の人にも使えるようにすることである。この3原則から垣間見えるのが、共感の考え方である。
このようなインクルーシブデザインの活動の基になっているのがパーパス、存在理由である。さらに、視野を広げ環境までパーパスを視野に入れて活動していこうというのがSDGsである。
(3)SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)
従来の悪と善、勝者と敗者などの二元論(Dualism)を超えて、SDGsは持続的な共存を掲げている[6]。また環境保全と経済成長は両立するという基本的考え方でもある。
SDGsの基本概念は以下の通りである[7]。
①人権ベース(Right-based)
万人の基本的人権の尊重など
②包摂性(Inclusivity)
誰も取り残さない。女性、障がい者、子供などが直面する構造的差別をなくすなど
③普遍性(Universality)
すべての国が必要な改革を実行するなど
④衡平性(Equity)
弱い立場の人々や国々への優先的な資源配分など
⑤統合性(Integration & Indivisibility)
経済・環境・社会のバランスの重視など
⑥参加型(Participatory)
影響を受ける人々を配慮した政策・施策など
⑦透明性・説明責任(Transparency & Accountability)
結果に対する責任など
このような施策は地球が病んでいる証拠でもあり、地球に住む人々のミクロの意識を変えマクロの地球全体の視点を持つ必要がある。
最後に企業のグローバル戦略、特に農業、水産業について述べる。この領域もパーパスが絡んでいる。
(4)農業、水産業のグローバル戦略
この農業と水産業は、従来、ミクロの国内市場が中心であった。しかし、国内市場が縮小し、マクロの海外にも活路を見出す戦略を実行している。農林水産省によると、「農林水産物・食品の輸出額を令和7(2025)年に2兆円、令和12(2030)年に5兆円とする目標の達成に向けて、輸出拡大実行戦略に基づき、マーケットインの体制整備を行います。」[8]と戦略を説明している。
ミクロの国内市場ならば、それほどオリジナリティがなくとも値段でビジネスが成立していたであろう。しかし、マクロの世界市場となるとその存在理由があいまいだと多様なユーザがいる海外では相手にされない。何事もコンセプトがシンプルで明確な製品は訴求力があり目につくが、そうでない何が売りかわからない商品は相手にされない。例えば、田舎で数百人程度の商圏でビジネスをしていた場合、都会で何百万人相手の商売をするとき、その商品は果たしてそのままで売れるであろうか?前回紹介した「部分(田舎)」→「全体(都会)」の構図から考えると一意性がおき最適解がわからない。
以上、マクロ、ホリステックの視点から考えることは、企業の本質、方向性を必然的に考えることとなり、その一つの方法がパーパスである。企業だけでなく、製品開発でもそのパーパス(存在意味)を徹底的に考えることは、今後重要なベクトルになるだろう。
<参考文献>
1.山田敦郎,矢野陽一郎,グラムコーパス研究班,パーパスのすべて,PP.18-21,中央公論新社,2022
2.ジュリア・カセム,ホートン・秋穂(訳),PP.64-65,フィルムアート社,2014
3.ジュリア・カセム,ホートン・秋穂(訳),P.64,フィルムアート社,2014
4.ジュリア・カセム,ホートン・秋穂(訳),P.65,フィルムアート社,2014
5.キャット・ホームズ,大野千鶴(訳),ミスマッチ,P.23,BNN新社,2019
6.田瀬和夫,SDGパートナーズ,SDGs思考,P.36,インプレス,2020
7.モニターデロイト(編),SDGsが問いかける経営の未来,P.57,日本経済新聞社,2019
8.https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r2/r2_h/measure/t2_02.html(2026年1月19日)
※先生のご所属は執筆当時のものです。
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