第40回 表示を観察する(1)
2013.11.19 山岡 俊樹 先生
ある学術調査と会議のため、ドイツ、オランダ、オーストリアに行ってきた。大阪空港(伊丹)から成田経由して、ミュンヘン国際空港、スキポール空港、ウイーン国際空港を利用する機会を得た。
最初の大阪空港でまず間違えてしまった。10年前に利用しただけなので、初心者と同じである。図1にあるように出発ロビーの表示が目に入り、その手前にカウンターがあり、旅行客が並んでいたので、ここでよいと思い並んだ。しかし、いざ手続の時、係員から図1の白の矢印で示したところに表示してある国際便乗り継ぎの所に行くように言われた。
つまり、大阪空港は表示が情報のつながりや容易にその存在が分かるデザインになっていないのである。
成田に着いて,搭乗機は47番ゲートなので,第一旅客ターミナルのレイアウト図(図5)で確認した。安心して、歩き出すと表示板が図2のような「11-38・51」と表示されており、47の表示が無く、おかしいなと心配になり出した。再度、別のレイアウト図で確認すると、確かにこの表示の先に47番ゲートがあった。更に進むとやっと47番ゲートを示す表示板があった。これは情報の一貫性がないのである。
ウイーン国際空港に行くため、スキポール空港で搭乗手続をする際、表示板を見ながら容易に目的のB17番ゲートに辿り着いた。情報の流し方が、大まかな情報(図3)から詳細な情報(図4)へと絞って表示しているので分かり易いのである。しかも、スキポール空港はハブ空港で多様な人々が使うため、表示文字が非常に大きく、見易い。そして、重要な情報は強調しているのである。余り重要でない情報、例えばレストランなどの情報は背景色と文字色のコントラストを弱くしている。
著者は、可視化の三原則を提唱しているが、それは「強調」「簡潔性」「一貫性」である。
重要な情報は強調し、見易くするため簡潔性なデザインにし、一度決めたルールの一貫性は守という原則である。この3原則が前述の表示のデザインにすべて当てはまるのが分かる。
人間がシステムに対して持つ操作イメージをメンタルモデルと呼び、メンタルモデルにはFunctional ModelとStructural Modelがある。簡単に言えば、前者は手順を意味し、後者は構造を意味する。この2つのモデルにより我々は操作や情報を良く理解できるのである。この考え方を表示に当てはめると、ゲートまで行く方向指示(道順)を示しているのがFunctional Modelである。一方、空港のレイアウト図がStructural Modelである。つまり、空港レイアウト図を見て、全体の構造を理解し、次に方向指示の表示を見て、ユーザは目的のゲートまで辿り着くのである。どの空港もレイアウト図が小さいので、大型の液晶などを使い、情報を動的に提示するとユーザの理解は進むと思われる。
最後に、帰国するウイーン国際空港でF17がゲートなので,この近くでパソコンを使って仕事をしていた。搭乗時間近くになったので行ってみると殆ど人が座っていない。おかしいなと出発時間の液晶表示板を見るとF01に変更になっていた。
こういう不便さを無くし情報を一元化するため、IT技術によりスマホなどを使って、自動的に搭乗手続やナビゲーションをしてくれるシステムが近い将来、登場すると予想している。
※先生のご所属は執筆当時のものです。
関連記事一覧
第102回 ホリステックな考え方(12) 全体と部分の関係
第101回 ホリステックな考え方(11) 目利きの能力
第100回 ホリステックな考え方(10) 絞込み思考
第99回 ホリステックな考え方(9) 目利きの重要性
第98回 ホリステックな考え方(8)
第97回 ホリステックな考え方(7)
第96回 ホリステックな考え方(6)
第95回 ホリステックな考え方(5)
第94回 ホリステックな考え方(4)
第93回 ホリステックな考え方(3)
第92回 ホリステックな考え方(2)
第91回 ホリステックな考え方
第90回 思考の硬直・停止(その11)思い込み(固定概念)
第89回 思考の硬直・停止(その10)思い込み(固定概念)
第88回 思考の硬直・停止(その9)思い込み(固定概念)
第87回 思考の硬直・停止(その8)思い込み(固定概念)
第86回 思考の硬直・停止(その7)思い込み(固定概念)
第85回 思考の硬直・停止(その6)思い込み(固定概念)
第84回 思考の硬直・停止(その5)
第83回 思考の硬直・停止(その4)
第82回 思考の硬直・停止(その3)
第81回 思考の硬直・停止(その2)
第80回 思考の硬直・停止
第79回 ボリューム感
第78回 構成の検討
第77回 アクセントの効用
第76回 活動理論の活用
第75回 観察におけるエティックとイーミックの考え方
第74回 チェックリストの活用法(5)
第73回 チェックリストの活用法(4)
第72回 チェックリストの活用法(3)
第71回 チェックリストの活用法(2)
第70回 チェックリストの活用法(1)
第69回 温かいデザイン(45) サービスデザイン
第68回 温かいデザイン(44) サービスデザイン
第67回 温かいデザイン(43) サービスデザイン
第66回 温かいデザイン(42) サービスデザイン
第65回 温かいデザイン(41) サービスデザイン
第64回 温かいデザイン(40) サービスデザイン
第63回 温かいデザイン(39) サービスデザイン
第62回 温かいデザイン(38) サービスデザイン
第61回 温かいデザイン(37) サービスデザイン
第60回 温かいデザイン(36) サービスデザイン
第59回 温かいデザイン(35) サービスデザイン
第58回 温かいデザイン(34)サービスデザイン
第57回 温かいデザイン(33)サービスデザイン
第56回 温かいデザイン(32)サービスデザイン
第55回 温かいデザイン(31)
第54回 温かいデザイン(30)
第53回 温かいデザイン(29)
第52回 温かいデザイン(28)
第51回 温かいデザイン(27)
第50回 温かいデザイン(26)
第49回 温かいデザイン(25)
第48回 温かいデザイン(24)
第47回 温かいデザイン(23)
第46回 温かいデザイン(22)
第45回 温かいデザイン(21)
第44回 温かいデザイン(20)
第43回 温かいデザイン(19)
第42回 温かいデザイン(18)
第41回 温かいデザイン(17)
第40回 温かいデザイン(16)
第39回 温かいデザイン(15)
第38回 温かいデザイン(14)
第37回 温かいデザイン(13)
第36回 温かいデザイン(12)
第35回 温かいデザイン(11)
第34回 温かいデザイン(10)
第33回 温かいデザイン(9)
第32回 温かいデザイン(8)
第31回 温かいデザイン(7)
第30回 温かいデザイン(6)
第29回 温かいデザイン(5)
第28回 温かいデザイン(4)
第27回 温かいデザイン(3)
第26回 温かいデザイン(2)
第25回 温かいデザイン(1)
第24回 人間を把握する(6)
第23回 人間を把握する(5)
第22回 人間を把握する(4)
第21回 人間を把握する(3)
第20回 人間を把握する(2)
第19回 人間を把握する(1)
第18回 モノやシステムの本質を把握する(8)
第17回 モノやシステムの本質を把握する(7)
第16回 モノやシステムの本質を把握する(6)
第15回 モノやシステムの本質を把握する(5)
第14回 モノやシステムの本質を把握する(4)
第13回 モノやシステムの本質を把握する(3)
第12回 モノやシステムの本質を把握する(2)
第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)
第10回 3つの思考方法
第9回 潮流を探る
第8回 システム・サービスのフレームワークの把握
第7回 構造の把握(2)
第6回 構造の把握(1)
第5回 システム的見方による発想
第4回 時間軸の視点
第3回 メンタルモデル(2)
第2回 メンタルモデル(1)
第1回 身体モデル
第70回 UXを考える(6)
第69回 UXを考える(5)
第68回 UXを考える(4)
第67回 UXを考える(3)
第66回 UXを考える(2)
第65回 UXを考える(1)
第64回 制約条件を考える(10)一を知り十を知る
第63回 制約条件を考える(9)
第62回 制約条件を考える(8)
第61回 制約条件を考える(7)
第60回 制約条件を考える(6)
第59回 制約条件を考える(5)
第58回 制約条件を考える(4)
第57回 制約条件を考える(3)
第56回 制約条件を考える(2)
第55回 制約条件を考える(1)
第54回 物語性について考える(9)
第53回 物語性について考える(8)
第52回 物語性について考える(7)
第51回 物語性について考える(6)
第50回 物語性について考える(5)
第49回 物語性について考える(4)
第48回 物語性について考える(3)
第47回 物語性について考える(2)
第46回 物語性について考える(1)
第45回 適合性について考える
第44回 制約条件について考える
第43回 サインについて考える
第42回 さまざまな配慮
第41回 表示を観察する(2)-効率の良い情報入手-
第39回 さりげない“もてなし”を観察する(4)
第38回 さりげない“もてなし”を観察する(3)
第37回 さりげない“もてなし”を観察する(2)
第36回 さりげない“もてなし”を観察する(1)
第35回 「結果-原因」の関係から人間の行動を観察する
第34回 「目的-手段」の関係から対象物を観察する
第33回 マクロとミクロの視点で観察する(2)
第32回 マクロとミクロの視点で観察する(1)
第31回 階層型要求事項抽出方法-REM(2)
第30回 階層型要求事項抽出方法-REM(1)
第29回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する (2)
第28回 消費者のインサイトに仮想コンセプトを使って観察する(1)
第27回 サービスに仮想コンセプトを使って観察する
第26回 サービスを構造的に観察する(3)
第25回 サービスを構造的に観察する(2)
第24回 サービスを構造的に観察する(1)
第23回 事前期待と事後評価の差分からサービスの評価を行う
第22回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(3)
第21回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(2)
第20回 サービスの設計項目から、サービスシステムの問題点を探る(1)
第19回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(7)
第18回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(6)
第17回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(5)
第16回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(4)
第15回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(3)
第14回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(2)
第13回 70デザイン項目を活用してシステム、製品の使用実態や問題点を探る(1)
第12回 70デザイン項目とアブダクション
第11回 世の中の動向、ファッションを観察する(2)
第10回 世の中の動向、ファッションを観察する(1)
第9回 俯瞰してHMIを観察する
第8回 ユーザとそのインタラクションについて観察する
第7回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(2)
第6回 製品(システム)とそのインタフェース部について観察する(1)
第5回 直接観察法について-自然の状況下での観察-
第4回 観察を支援する70デザイン項目について知る
第3回 人間について知る-多様なユーザの特徴を理解する-
第2回 人間-機械系について知る-HMIの5側面-
第1回 観察の方法