第115回 「全体・部分・時間」を活用した観察方法について(3)

2026.4.27 山岡 俊樹 先生

 「全体・部分・時間」の視点から対象物やシステムを観察すると、通常気がつかないことも、この視点が手がかりとなって気がつく。

 今年2月の日経ビジネス(2026年2月2日号-2026年2月23日号)でエーザイのSECI(セキ)モデルを活用した製品開発の話が出ていた。SECIモデルは野中郁二郎氏によって開発された暗黙知から形式知に変える有名なモデルである。SECIモデルは以下の項目を順番に対応することにより暗黙知を形式知に変換する内容である。
・共同化(Socialization: S)
  対話などを介して、熟練者のスキルなどを把握するプロセス
・表出化(Externalization: E)
  得たノウハウを言葉や図などに変換するプロセス
・連結化(Combination: C)
  獲得した知識を組み合わせて得られる新しい知識などを作り出すプロセス
・内面化(Internalization: I)
  連結化で得られた形式知を実践することにより、個人のスキル、ノウハウが身体化される
 昔、このモデルを知った時は、工場でのノウハウの伝承を行うのにふさわしい方法だと解説文が多くあったので、エーザイでの活用を知った時、正直驚いた。

 エーザイではこの手法を使って、研究者が病院に何週間か滞在して患者の困りごとに共感し、SECIモデルを使って情報を身体化して製品開発をしているとのこと。

 このモデルと関係があるのがGrounded Theory(GT)といえよう。米国のグレイザー(Glaser)とストラウス(Strauss)によって開発された方法である。簡単にいえば、観察、インタビューによって得られたデータを細分化し、整理し、カテゴリー化して、観察対象やインタビュー対象者(Interviewee)の背後にある構造や価値観などを探る方法である。1998年ごろ台湾の大学で講演を頼まれ、そこで出会った台湾の先生から教えてもらったのが始めであった。この先生はイギリスの大学でこの手法を使った研究で博士号を取得したと聞いた。その後、和歌山大ではモノ・コトづくりに役立つようにこの方法をベースに簡易版を作った。そのなかでもProperty(特性)とDimension(特徴)は、この視点からモノ・コトをみていくと曖昧であった対象が明確になるので効果的である。
 図1に示すようにモノをProperty(特性)とDimension(特徴)からみていくと、具体的に何であるのか明確になる。インタビューのように無形の場合、この2つの特性から発言(部分)を分析していくと、発言者の意図(全体)を構造的にとらえることができる。
 以上の方法は部分情報(インタビューデータなど)から全体情報(暗黙知、価値観など)を知るのに役立つ。全体から部分の推定は容易であるが、このような部分から全体の推定は、一意性が無いので難しい。

図1 プロパティとディメンション

 部分情報から全体を推定するには、多くのデータを得て帰納法的に推定するほかないだろう。この詳しい話は次回紹介したい。



※先生のご所属は執筆当時のものです。

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