第113回 「全体・部分・時間」を活用した観察方法について

2026.3.4 山岡 俊樹 先生

 観察方法はさまざまな方法があるが、今まで述べてきた「全体・部分・時間」を活用した方法を紹介したい。

 地元のバス会社を利用しているとさまざまなことに気が付いた。
 大抵の男性の運転手は運転中や到着した下車での客扱いに対し、ほとんどしゃべらない。乗客の行動をただ見ているだけである。ある時、女性の運転手が下車での客扱いで、下車するお客に対し気配りや感謝の気持ちを声にしていた。運転中でも注意事項を発し乗客の安全に気配りをしていた。非常に良い気分になった。他の乗客も同様であろう。

 なぜこうも違うのだろうか?この女性の運転手のみがこのような対応をしているのであろうか?常識的に考えれば、このような態度や発言は乗客の安全に対する配慮や利用に対する感謝の気持ちを述べることは自然である。だから顧客も感謝の気持ちを発する。レストランやコンビニでも顧客に対する態度は同様である。これらの場所で「ありがとうございました」と言わないで、頭も下げず黙っていることはないだろう。しかし、海外(米国など)では必ずしもこの態度が標準ではない。

 原因はバス会社のマネージメント能力の低下であろうか。人員不足であまりうるさく言えないのか?また、ほとんどのバス会社で運転手同士が道路で出会うと片手を挙げて挨拶をしている。これはリスクマネージメントの観点から、危険でやめさせたほうが良い。仕事中に私的な関係を持ち込むのは良くないからだ。米国、シアトルで一流と言われるホテルにチェックインした時、対応した女性の担当者が隣の係員と雑談しながら対応しているのにはあきれた。この態度も仕事中に私的な関係を持ち込んでいる。

 一方、福岡市で乗車した大手のバス会社の運転手は手を挙げなかった。多分、しっかりとしたマネージメントの結果で、その会社のマネージメント力を示している。
 ある地方都市で乗車した際、新人の運転手が指導員の下、業務に励んでいた。この時も同僚のバスとすれ違う時、運転手は手を挙げていたが、指導員は何も注意、指導をしなかった。別段、問題ない行為として認識していたのであろう。このようなささやかなことをつぶしていくことにより安全が担保されると言うのに。例えば、カーブを曲がる時手を挙げて、側壁にぶつかる事故が起きた時、やっと気が付く。運転のプロと言えど人間ならば必ずミスを起こすという原則を知らなければならない。

 マネージメント力は時間がたつと、徐々に慣れが生じ劣化していく。それをさせないため、朝礼などをして劣化をくい止めている。企業において、技術力ではなくマネージメント力が重要である。マネージメント力(全体)の中に技術力(部分)が包含されるからだ。技術力が弱ければ、マネージメント力で対応し、その技術力のある企業をM&A(Mergers and Acquisitions: 合併と買収)をすれば良いだろう。収益の高い企業の共通の特徴は、高いマネージメント力である。

 以上のバスの件を「全体・部分・時間」で考えてみる。
 全体: パーパス(存在理由)、マネージメント
 部分: 顧客への感謝の気持ちと安全の配慮
 時間: パーパス(存在理由)、マネージメント力劣化の対応
 バス会社のマネージメント力が弱いと運転手の顧客に対する態度がばらつく。更に時間とともに慣れのためマネージメント力が劣化していく。このような構造をとらえることができれば、何をすべきかその会社の歴史(時間)や従業員(部分)を配慮して、具体的な対応策(パーパス(存在理由)、マネージメント)が絞り込まれてくる。

 デザイン思考は観察する時被観察者の行動やシステムの問題点を探し、その解決案を思いつくままアイディアを出していく方法である。合理的な方法であるが、1つの隘路がある。それは属人性が高く、学生のように慣れていないと表面的な事項の抽出で終わってしまう可能性がある。
 「全体・部分・時間」のように、フレームを活用すれば、総合的にとらえることができるので、だれでも分析や創造は可能である。観察者の不足分をフレームがサポートしてくれるためである。しかし、そのレベルを更に上げるには「全体・部分・時間」に関する知識、思考を増やさなければならない。
 全体: モノ・コトづくり、社会や経済の動向など
 部分: モノ・コトづくりの情報など
 時間: 過去の情報、現時点での俯瞰的把握など

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 従来、筆者は観察ポイントを紹介し、勿論全体からの観察も述べてきた[1]。しかし、時間に関しては「痕跡」程度で、時間に関して強く意識をしていたわけではない。それらの3項目を有機的な関係に再構築したのが、「全体・部分・時間」の考え方(図1)である。
 この全体・部分・時間の視点は、人間、モノ・コトやシステムに対する見方であるので、さまざまな事項に活用できる。


<文献>
1. 山岡俊樹編著, 観察工学, PP. 1-49, 共立出版, 2008

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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