第116回 「全体・部分・時間」を活用した観察方法について(4)

2026.5.25 山岡 俊樹 先生

 「全体・部分・時間」の視点から対象物やシステムを観察すると、通常気がつかないことも、この視点が手がかりとなって気がつく。

 前回の最後に、部分情報から全体を推定するには、多くのデータを得て帰納法的に推定するほかないだろう、と述べたので紹介する。

 近くのスーパーに買い物に出かけると、大人や中学生などがそこで購入した食品を食べながら歩いているのをよく目にする。また、電車内でも食事をしたり、化粧をする女性もよく見かける。このような部分情報を帰納法的に推定して全体情報を得るには、それらの行為の共通要素を探すことである。それは食事・化粧などの私的行為を公共空間で行うことである。この観点からこの例を探すと、最近なくなったが立小便をする、唾を吐く、ごみを捨てる、などがある。

 一事例の場合はどうすればいいのだろうか?帰納法は使えないので、手段-目的の関係から上位概念を探っていけば良い。例えば、観察して読書での問題点が「表示文字が小さい」「そのコントラストが弱い」の場合、「見やすい文字にする」にすれば解決がつく。その目的を更に探っていくと「ユーザの負担をなくす」が考えつく。このレベルでも良いのだが、更に上位のその目的を聞いていくと「読書を気持ちよく達成してもらいたい」と最上位概念に到達する。この最上位概念を分解(目的→手段)すると紙媒体の読書でなく他の手段で最上位概念を具現化することもできる。例えば、「読書を気持ちよく達成させたい」を目的→手段の関係からその手段を考えると、スクリーンに文章が表示され、それに合った音楽が流れ、音声で文章を読んでくれるシステムなどが考えられる(図1)。

 先の私的行為を公共空間で行うことを考えるには、世の中の動向を知るのが大事である。時間の観点から考えると、従来は効率中心でモノゴトを判断していたが、現在は多様性、許容性を包含した脱近代化の社会になっている。このようなマクロの状況が分かっている場合はいいが、分からない場合は「手段→目的」の関係でさかのぼれば良い。「歩きながら食べる」→(目的)「早く食べたい」→(目的)「満足感を早く得たい、良い気分になりたい」となり、これを許してくれるのが許容性のある社会である。現在はそうなっているので、誰もあまり白い目を向けないが、良否ではなく価値観の視点で考えると良い。

 以上示したように、部分は全体の一部なので、全体から部分を特定するのは難しくはない。例えば、全体情報「梅海苔おにぎり」ならば、部分情報は梅、海苔、ご飯と特定できる。逆に、部分情報が梅、海苔、ご飯ならば、全体情報として、海苔弁当、梅海苔おにぎり、ご飯の半分に海苔と梅がそれぞれ配置された弁当などさまざまなアイディアが生まれ一意的に決まらない。だからこそユニークなアイディアが生まれる可能性がある。図1に示すように、全体の抽象度があがれば、それを分解してさまざまなアイディアを生むことができる。
 そうするとアイディアを生むには全体の抽象度をあげて分解するか、部分から全体への視点からアイディアを出すのが良いだろう。全体→部分がシステム思考であり、部分→全体がデザイン思考ともいえる。システム思考を用いてアイディアを生む方法は今まで紹介されていなかったが、実はできることを言明したい。


図1 目的ー手段の階層図



※先生のご所属は執筆当時のものです。

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