第121回 「全体・部分・時間」を活用した観察方法について(9)

2026.10.29 山岡 俊樹 先生

 「全体・部分・時間」の視点から対象物やシステムを観察すると、通常気が付かないことも、この視点が手がかりとなって気が付く。

モノ・コトの考え方
1.何事にも表と裏がある
 前回述べたように、モノ・コトには表と裏がある。目の前に現れる表の事象に気を取られるのではなく、その裏側にある事象や影響も考えるとよい(図1)。そうすると、表と裏の両面から考えることができるので、より合理的で幅広い判断が可能になる。
 昔、和歌山県の海南市に住んでいたころ、眼科で診察を受けるため市立病院で順番を待っていた。ところが、同じように待って遠方から来た高齢者が「3時間も待ったのだ、どうしてくれる」と看護師に怒りをぶつけていた。確かに貴重な時間を取られるので、怒るのは無理もないが、3時間という時間を何もせずに待つのは苦痛だ。待つという表の事象に対し、裏の事象として何かをすればいいと思った。仕事のことなど考えなければならないさまざまなことはあるはずなので、メモ帳を持って気が付いたことをメモするなど、行うことは必要ではないだろうか。私は常にメモ帳、カメラ、本のうち2つ程度を持参し、気が付いたことはメモや写真を撮るようにしている。これが結構楽しいし、注意力が高まることにもつながる。
 あるモノ・コトに光を当てるとその部分が切り取られ影ができ、裏面が発生する。光を当てるということは、人がその光の当たった部分に関心を持つことだが、それだけではなく裏面の存在も考える必要がある。コスパ(コストパフォーマンス)、タイパ(タイムパフォーマンス)などの光の当たる合理主義の裏面には、それらの動きに対応できない人々やそれに反対の立場の人がいるのを忘れてはいけないだろう。モノ・コトに対して全体から見るとは、その表面と裏面から総合的に考えることである。
 最近の人間の生活領域への熊の出没や、奄美大島におけるハブ対策としてのマングースの導入などで考えなければならないことは、表面上の対策に終始するだけでなく、裏面の事象も思考して総合的に考えることであろう。

図1 切り取られた事象の表面・裏面


2.事象を構造的に見る
 事象を構造的に見るということは、対象をシステムとしてみて、モノ・コトを思考することである。システムの構成は図2の通りで、その内容は以下の通りである。

1.さまざまな情報を絞り込んで目的(制約)を設定する
2.目的に応じて入力と出力が絞られ、システムの内容が特定される
3.出力が想定外で問題点が発生すれば、システムを変更する

 この構成からさまざまな事象に応用ができる。例えば、モノ・コトづくりに応用できるのはもちろんのこと、ビジネスモデル、人事システム、人間関係など幅広く活用できる。
 一番難しい人間関係に対応させて考えてみる。目的は人間関係を良好にするとし、会話の場合、あることを相手に伝えたい場合(入力)、相手を尊重する思いやり(利他の心)を基本的な考え方(システム)とし、相手に伝える(出力)という構成となる。これで問題が起これば(問題点)、これをフィードバックして思いやりを少し変えてみる。このような繰り返しを何回も行うことにより、人間関係が良くなるだろう。もちろん、複雑な人間関係でこのような論理的アプローチだけではなく、しぐさとか表情などの非言語的要件も影響を与えるので、システムの要件として考える必要がある。表面的な言葉を弄するのではなく、心から発信していけばよい関係になるだろうと信じている。人間関係の場合、このように論理的に厳密にアプローチする必要はないが、基本的考え方を覚えておくだけでも役に立つだろう。


図2 システムの構成


※先生のご所属は執筆当時のものです。

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